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「それより昨日やばいことが起きた」 「なに?昨日って、珠希の家で?」 「うん」 天音は珠希に連れ帰られ、ダブルベッドに寝かされると、彼が持ってきた水を飲む前にすぐに眠りに落ちてしまった。 それから何時間後のことだろうか。天音は布団に潜り込んできた誰かによって、突如背後から強い抱擁をされた。身体の大きさ的に男であろう。 しばらく無かった懐かしい感覚だ。酔いとねぼけでしばらくはぼんやりとその抱擁を受け入れていたが、首筋に熱い吐息が当たった瞬間、やがて自分のあらゆる現状を思い起こし、一気に目が冴えて慌てて身体を離した。 そして振り返った彼の目に飛び込んだのは、同じく目を丸くして凍りつく、よく見知った男の顔であった。 「は?……天音??何してんの??」 目の前で狼狽している、下着だけの銀次の姿。すると声を聞きつけて起きたのか、隣のリビングから珠希が眠たそうな顔でやってきた。彼はベッドではなくソファーで眠っていたらしい。 「銀次うるさい」 「珠希、なんで天音いるんだよ!!」 「大きな声出さないで。さっきラインしたじゃん。今日天音が潰れたからうちで寝かせるって」 「は?見てねえよ」 「見てないのは君のせいでしょ」 「うわ、……危なかった。普通にちょっとヤる気でベッド入り込んだ」 それを聞いて天音の全身に鳥肌が立った。どうやら弟同然の彼に勘違いで犯されるところだったらしい。 「やめろよ気持ち悪い」 「だって珠希だと思ったんだからしょーがねえだろ。お前ら体格もなんか似てるし」 「普通そんな勘違いする?玄関の靴とかで誰か来てるなとか分からなかった?」 「靴なんて俺のやついっぱいあるからわかんねえよ」 「片付けてって言ってるのにずっと出しっぱなしなのが悪いんだろ。明日以降あのままだったらもう全部捨てるからね」 「はーー……マジでビビった。でもよかった天音で」 「こっちはよくない」 「今度からちゃんとライン見てよ。たまに会社の人とかも来るんだから」 「それだったらマジでやばかったな」 卒業した日に珠希が高鷹と別れたのを天音経由で知り、一途(というか執着心が異常)な銀次は3年ほど前から再度彼と連絡を取り合うようになった。恋心を見せた以上は、高鷹がいる限り近づけない存在であったから、ただの友達として遊ぶこともなかったのだ。 だから初めは遊び友達として、忙しいスケジュールの合間に彼を家に招いたり、当時住んでいた珠希のマンションに遊びに行ったりしていた。 一度2人で歩いている際に記者らしき人物に写真を撮られたような気もしたが、珠希がどうやら男であることがわかったのか、それ以降は彼と歩いていてもまったくマークされることはなくなった。 なので彼と恋人になった現在は堂々とデートをするし、2人で借りたこのマンションに帰ってくるようになった。 そしてこの関係は、高鷹には明かしていない。知るのは天音とサラだけだ。なんでも明け透けでオープンな珠希らしくないが、天音もこの関係については周囲に対して慎重でいいと思っていた。 天音は珠希がソファーで寝ていたことを悪く思い、ベッドは銀次と2人で使ってくれと言って、自分がソファーで眠ることにした。銀次は「俺2人に挟まれて寝たい」と言っていたが、2人は聞こえていないかの如く無視をした。 少し寝てからあっという間に朝になると、珠希もわざわざ起きてくれ、銀次が毎朝飲むからストックしているのだと言って、インスタントのしじみ味噌汁を出してくれた。天音はそのとき、仲間たちと心霊スポットに行き、林田の家で迎えた朝の光景を思い起こした。 朝から缶ビールを飲む無愛想な林田の父と、厳しい林田の母が作った美味しい朝ごはんをよく覚えている。
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