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会社経営はそれなりに軌道に乗るだろうという自信があった。星崎家が代々行ってきた仕事とまったく畑違いのことではそうはいかない。 捨てられたものがどこへどう流れていくのか、あるいはどのように処分すればいいのか。世の中にはどういう困り事があり、それをどうすれば解決へと導けるのか。昔から親を見て自然に培われた知識が、その確信をもたらした。 またずっと地元で商売をしていることもあり、祖父や父が昔から近隣に様々なつながりを持っていたことも、息子である自分の代で大いに役立った。事業の幅を広げるため、自身で蓄えた資金から新たに不要品の回収作業を請け負う会社も父と共同で立ち上げ、今では公的機関から依頼を受けることも増えてきた。 腰を据えて働いてくれる人手が必要となったので、メインの会社を立ち上げてから18ヶ月後には正式な社員としての人員を雇い入れた。アルバイトにも悪くない時給を払っている。サラにだって、同年代の会社員よりずっと高い報酬を与えている。 自分自身も事業を拡大させたことで親の年収は優に越えた。悪政の世で、働いた分の成果をしっかり得られているのはありがたいことだ。 休まず働く親のおかげで、裕福ではないものの金に困る人生でもなかった。これまで降りかかった困難ごときと引き換えるには、有り余るほどの恵まれた生活だ。親はまだそれほど歳を取っているという年齢ではないが、彼らが還暦を迎える頃には多少なりとも楽な暮らしをさせてやりたいとは考えている。 だから自分も親と同じように、毎日必死に一所懸命、汗を流して働いている。大学はほとんど行かなかったから、他の仲間たちのように高校から引き続きの学生としてのキラキラした青春を謳歌することはなかった。だがあの出遅れた高校生活でそれを堪能できたから、もう充分に満足している。 この街は独立して仕事をする者が多い。建設業や職人、あるいは代々の家業を継いだりして、20代で親方をやっている友人もいる。おまけに家族を作る年齢も、東京といえどこの地域は地方と同じくらい早いように思える。 弟は5月で5歳の誕生日を迎えたが、今年の春に行われた中学時代の同窓会では弟と同い年の子供を連れてくる同級生もいたし、ここ数年は一人ひとりにお祝いをしていたら資金が尽きそうなほどの結婚ラッシュとベビーラッシュであった。
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