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時計を見る。父はもうとっくに仕事を終え、弟を風呂に入れてから、いつものように缶ビール片手にヤクルト戦に見入っているだろう。 母はおととし洋裁に目覚め、今は週に1回のレッスンに通い、時間があれば弟の服を作ったり、去年飼い始めた猫のトトロの服を作ったりしている。だがトトロは服を着たがらないので、近所で小型犬を飼っている新川さんと槙野のおばさんにほとんどあげてしまう。トトロはデブなのでサイズが合わないと思うが、2人とも喜んでくれているらしい。 自由時間がないことを憂うどころか、忙しく不自由な現実に対する一切の感情がもう無くなった。仕事に忙殺された人生を生きている。サラリーマンになった友人たちは時間がないと言いながらもよく飲みに出ているようだが、自分はそんな気概すら沸き起こらないし、何より仕事のあとに出かけていく体力がない。 自営歴の長い父はをよくわかっている。家族を養える程度に稼ぎ、金曜の夜だけは小遣いを持って近所の安い酒場に出かけていき、そこの大将や仲間と盛り上がって楽しげに酔って帰ってくる。 月に1度の草野球チームにもまだ所属しているし、試合のない日曜は弟と遊びに行き、シーズンになればヤクルト戦を観に行ったりして、自分などよりずっと余裕のある暮らしをしている。 「あんまり手広くやろうとするなよ」という助言は守っていくつもりだ。自分の力が及ばなくなるほど事業が拡大することは避けなければならない。 立ち上げ間もなくは仕事に夢中だったが、社長業もやや慣れてきた今となっては、気楽な高校時代が恋しくてたまらないときもある。
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