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そんな折、ある男たちから、偶然にもほぼ同タイミングで久しぶりに連絡が来た。だが1人はラインで、1人はハガキだから、彼らが連絡をしようと思ったタイミング的にはラグがある。
事務所に届いたハガキにはすぐ気づけたのに、私用スマホをあまり見ていなかった天音はラインの方にまったく気づかなかったので、同じグループ内のサラが教えてくれた。
「珠希?元気してるの?」とラインの主本人でなくサラに尋ねたところ、「あの人は元気じゃないときがないでしょ」と言われた。
高校の3年次のクラスでの小さな同窓会は去年行われたが、寮生活でいつもつるんでいた面々とはサラ以外クラスがバラバラだったので、集まることができなかった。そもそもその日は依頼が立て込んでいて会自体に参加することができず、あとからSNSで参加者の様子をサッと確認するだけであった。
「卒業してから1回しか会ってないから、またあのときのメンバーで会おうってさ」
「そっかあ。全然みんなと連絡も取ってなかったしなあ。珠希以外SNSとかやらないし」
「珠希だけはずっとキラキラしてるよね、なんか」
「あいつだけ高校の頃から何にも変わってない」
彼は成績はそれほど良くなかったが、大学は都内の有名私大へ行き、大手の外資系IT企業に就職した。新人としては異例の企画部に配属されたようで、元気で目立ちたがりの彼らしい"花形人生"を謳歌しているようだった。
話を聞くに、職場は同じように裕福な家柄の者が多い環境で、親が有名企業の重役以上の座につく者が多いそうだ。すなわち入社にあたり縁故的なものもふんだんに発揮されているのだろうが、なんであれ、彼に挫折や苦難は似合わない。どこでもすぐに馴染んでうまくやっていける彼を、天音はずっと尊敬していたし、これからもそうであってほしいと期待している。
「みんないつがいいって?」
「候補としては7日か14日の金曜夜からだって。新宿か渋谷が集まりやすそうだからそのあたりで」
「金曜かあ……」
「夜2、3時間くらい都合つけようよ。無理にでも空けないと、どんどん会えなくなるよ」
「そーねえ。……14なら20時過ぎるけど、それでもいいならって言っといて」
「はーい」
私的な連絡すらも"秘書まかせ"で、天音はようやくソファーから身体を起こし、明日のスケジュールに目を通した。
同学年の友人らは大学へ行ったので、みんなまだ社会人になりたてだ。おまけに3つも歳が違うので、天音との経験値には大いに開きがあり、いよいよこの年齢差もごまかしがきかなくなっている。それでも、頭の中が大きく変わったわけではない。精神の成長など10代で止まったような気がするから、あとは進化しているのか退化しているのかすらわからない。昔より背負うものは重くなれど、人間的な変化を感じるとしたなら、それはせいぜい老化による落ち着きなだけだと思っている。
「さ、いい加減帰りますか。浦野くんたち車で送ろうか?」
「いんすか?やった」
「香月クンが送ってくれるって」
「え、僕?」
「せんぱーい助かります」
「あざーっす」
「……もー、しょうがないなあ」
「自転車は店に入れて、車そのまま乗ってっていいや。明日また13時にここに回してくれれば。パーキングはまたカード切っといて」
サラは自分の車を持っていないので、同じ区内に借りた自宅から事務所までは自転車で通っている。社用車のバンと雑費用のクレジットカードをサラに託し、帰路につくスタッフたちを見送ってから、天音は自転車で自宅に帰った。
寮生活で親元を離れたが、卒業してからは結局実家に戻ることにした。わざわざ地元を離れるという考えがなく、事務所も同区内に構えたので、ひとり暮らしをする必要がなかったのだ。
弟の部屋は、かつて自分が使っていたいちばん日当たりのいい部屋だ。だから天音は現在、かつて物置同然にしていた部屋を片付け、そこに寝起きしていた。
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