1

1/2
前へ
/23ページ
次へ

1

"Choose life. Choose a job. Choose a career. Choose a family, Choose a fucking big television, Choose washing machines, cars,…… Choose rotting away at the end of it all, pissing your last in a miserable home, nothing more than an embarrassment to the selfish, fucked up brats you spawned to replace yourselves. Choose your future. Choose life. ... But why would I want to do a thing like that? I chose not to choose life. I chose somethin' else. And the reasons? There are no reasons. 「おはよーございまあす」 アルバイトの浦野が出勤するなり、ちょうど客からの通話を終えた"社長"に仕事を言いつけられた。 「浦野くんごめん、急遽だけど13時から!大型テレビと冷蔵庫」 「うっす」 「神原くんもあと少ししたら来るから一緒に行って。詳細はラインする」 「うっす」 「そこから2件続くけど、1件終わって、次の2件目終わったら一旦倉庫ね。たぶんトラック乗り切らない」 「ういーっす」 【ホシザキ産業(株)】という刺繍の入った白いTシャツをまとい、腰にシャツを巻き、カーキの作業用ズボンを履いているのは、この会社の若き代表・星崎天音だ。彼の父親はいつもツナギを着ているが、天音は基本的に毎日この格好をしている。 高校時代に染髪を重ねてすっかり明るくなってしまった髪も栗色程度まで暗くし、ダラダラと伸ばしがちだったヘアスタイルもやめた。おかげで初対面の人からバンドマンかバーテンか美容師をやっていたか、という質問もあまりされなくなってきた。 ラジオは1日中BGMとして流している。番組だけでなく、その中のコーナーによって、今が何時何分か耳だけで分かるようになってきた。恒例の視聴者プレゼントのコーナーが始まったいうことは、時刻はまもなく12:50だ。 作業場兼事務所、兼ちょっとした店舗にもしているこの"オフィス"に常駐し、デスクのパソコンに向かって作業をしては、詰め込まれた依頼の回収作業に向かう。4年前に安く譲ってもらった中古の2トントラックを乗り回す日々だ。 経営者とはいえこの仕事は現場作業がメインだ。さらに事務作業まで一手に担わなければならないのが、この仕事の社長業である。 親が祖父から引き継いだ会社をそのまま自分も引き継いだのではなく、天音は高校を卒業してから自身でこの会社を立ち上げた。大学進学もしたが早々に休学したのちに中退した。 業種は父の事業と似たようなものだが、あらゆる許可を新規で取得するのにはかなりの苦労も要したし、仕事に関連する勉強は今なお継続中である。 まともな雇われの経験もなく、一般的な社会人マナーも身につけないままでいいのか?と言う人もあったが、自分でも「それはあんまり良くないかもなあ〜」と思いつつ、ついうっかり、ここまでやれてきてしまった。営業はネットが勝手にやってくれるし、客もネットを見て勝手に依頼してくる。 今年で26歳。10代からここまで過ごすあいだは長かったような気がするのに、振り返れば儚く短い歳月であった。これから歳を重ねるごとこの感覚の速度も増すというのだから、若さはシャボン玉よりも儚く、田舎の農家の蔵からうっかり発掘された古代の宝よりも貴重だ。 「しゃちょー、コーヒーか麦茶飲む?」 「熱っついコーヒーください」 「ミルクだけ?」 「はい」 モニターから目を離さず答える。背後から声をかけたのは、大学を出てからいきなりの座に着かされたサラだ。天音の秘書のような役割も兼任している。 彼は親の望んだ大学には行かず、寮生活を始めてから今まで、地元には帰らなかった。これからも帰ることはないそうだ。 そして高校時代と同じように、大学も最低限の出席数で無事に卒業を果たした。普通の会社勤めどころか就活も無理だと言っていたが、やりたいことがないならうちはどうか、とハタチの誕生日に天音に誘われ、彼らしく流されるままカンタンな気持ちでこの会社に飛び込んだのだ。 2人揃って、本来は白いはずの肌がこんがりと焼けているのは、最近までアジア各国へ出張に赴いていたからだ。現在自社での輸出事業の展開を考えており、販路を獲得するための現地視察や複数の業者との話し合いをまとめてこなしてきた。現地の言葉はわからないので別のガイドを雇ったが、サラは英会話が堪能なため通訳として海外出張には欠かせない存在であった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加