第1話

9/10

759人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 早番終了後の時刻に合わせ、店の裏で待ち合わせた。都築さんはもうすでに到着していた。夕方でも気温は下がらない七月の暑さは異常で、彼はうっすら額に汗をかいていた。 「お待たせしました」  準備時間に余裕を持って伝えていた時間よりも、おそらくずっと早く来てくださったのだろう。 「いえ。今来たところですから」  にこっと笑う笑顔は、いつも以上に優しくて、ドキっとしてしまう。 (これはお仕事での付き合いだから。決してデートなんかじゃないんだから)  自分に言い聞かせ、おすすめのカフェ巡りをした。  早速路地裏で見つけた店舗に入り、ショコラカプチーノを頼んでみた。彼の言うとおり、他の店のものは苦い。それも必要以上に苦く感じた。  客入りの少ないないカフェだから、回転が悪くて粉が古いのかもしれない。  珈琲は香りが命。豆から挽きたてが一番おいしいのは言うまでもないことだけれど、粉のまま空気に触れさせると酸化し、芳醇な香りがすぐにとんでしまう。酸化は珈琲の敵。だからこそ保存はしっかりとした容器でないといけない。  このドリンクはまだクリームやチョコレートなどで誤魔化しているのでマシだけれども、エスプレッソだけで飲むとえぐみが感じられるかもしれない。また、使っている粉によってもその苦さが変わってくる。 「やっぱり苦いですね」  私がショコラカプチーノをオーダーし、彼はアイスアールグレイ・ティーを頼んでしたので、私のオーダー品をお裾分けした。しかめっ面をしている。 「そちらのティーを少しいただいてもよろしいでしょうか?」  私の勘が正しければ、きっとこのアイスティーも…  
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

759人が本棚に入れています
本棚に追加