第1話

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 受け取ったグラスの匂いを確かめる。やっぱり香りが飛んでいる。  アールグレイはフレーバーティーだから、ベルガモットという柑橘系果実の香りが漂ってくる。アイスティーだから香りは半減しても、新鮮な茶葉を使っているのであれば、もっと芳醇で素晴らしい香りがするのに、それがない。  水を飲んで舌や喉をリセットし、試しにひとくち飲んでみた。うーん…という感想しかわいてこない。 「残念ですが、こちらのお店の茶葉や豆・粉の保管状況が悪いのか、お客様の流動が悪いのか、どちらにせよ折角のドリンクが美味しくありません」 「えー、そんなのがわかるのですか」 「はい。ですから、都築さんはこういうお店を地道に見つけて営業されてみては? やみくもに珈琲の営業をされるより、うまく切り込んでお店の弱点をお伝えして、マシン導入などをサービスして契約に結びつけたらいかがでしょうか。珈琲は継続して仕入れられますから、小さなマシンのサービス程度は初回に乗せても、経営改善して益が出るようにすれば――」 「…」  あっ。私ったら!  つい仕事モードに入って、余計なこと言っちゃった!!  都築さん、黙ってしまったわ。ぜったい、引いてるよね…。 「ごめんなさい、つい、いらないお節介を言いました。忘れてください」 「…ごい」 「え?」 「すごいですよ岩谷さんっ。どうしてそんなにお飲み物のことがわかるのですか!?」 「あ…これでも一応、スターリングの店長なので…」 「岩谷さん、お願いです。僕を鍛えてください! 前職エンジニアの僕では、飲み物のことはさっぱりわからないので、岩谷さんの下で修業させてください。お願いします!」  えええ…あれ…どうしてこんなことに…?  
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