第1話

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第1話

  「店長、ほんとうにありがとうございました!」 「幸せになってね」 「はい!」  私が贈った花束を受け取った後輩の千治多見(せんじたみ)ちゃんが満面の笑みで応えてくれた。  彼女は今日、寿退社をする。婚活パーティーで知り合った男性と一か月ほどのお付き合いを経て、結婚することを決めたみたい。  彼の転勤が決まったことから、店を辞めて退職する。二年ほど業務を必死に教えた後輩が退職の運びとなったのだ。喜ばしいことではあるけれど、彼女が抜ける穴は痛い。すぐにアルバイトが見つかってくれたらいいけれど、多分無理だろう。最近はアルバイトでさえ求人を出しても来ないから雇うのが難しく、慢性的な人手不足になっている。  退勤していく後輩を送り出し、ため息をひとつ吐いた。 「岩ちゃ~~~ん。明日以降のシフト増やせる?」  店に戻ると早速マネージャーが飛んできた。シフトの相談ということはわかっている。 「はい…」 「ごめんねぇ。お手当出すから! 早急にヘルプも増加させる!!」  マネージャーである望月麗巳(もちづきれみ)さんは、申しわけなさそうに手刀を切った。アルバイトが見つからない以上、このお店を任されている店長のある私が、頑張るしかない。 「ブラックなのはコーヒーだけにしてくださいよ~」  冗談を飛ばしながら、今後のことを考える。私のスケジュールはもう、随分前から空きっぱなし。  有名コーヒーチェーン店『スターリング』の社員になってからは、仕事に精を出している。お店が忙しいものだから、ついつい頑張ってしまうのだ。すると、地位はついてくるけれども恋人とはいつも長続きがしない。それに、私は『サレカノ』体質のようで、恋人にはいつも裏切られてその関係が終焉を迎えることがほとんどだった。
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