第1話

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 恋愛しても長続きしない私は、いつしか彼氏を作ることよりも仕事に精を出すようになった。彼氏は裏切るけれど、仕事は私を裏切らない。頑張れば頑張るだけ評価され、わかりやすくお給料も上がった。  だから私は、いつも同じ理由でフラれてしまう。 『好きな女性ができたんだ。別れてくれ』 『香菜は仕事の方が好きなんだな』  聞き飽きた決まり文句。サレカノ体質は依然として直らない。ならもう、恋愛は諦めるしかない。  29歳になってもまだ、康太を除いて1年以上彼氏が続いた試しがない私に、両親はため息交じりに嫌味を言う。深冬は早々にいい人を見つけて結婚したのに、と、いつも私は妹と比べられる。要領も悪くかわいげがないから仕方ないのだろうけれど、常日頃からその差は歴然だった。  深冬が泣けば彼女を可愛がり、参観や行事が被れば深冬優先。彼女が産まれた瞬間から、私の存在は霞んでしまっていた。  でも、深冬本人は違った。彼女は私を慕い、私を大事にしてくれた。  だから深冬のことは好き。いつも恋愛オンチの私の話を聞いてくれて、愚痴も聞いてくれて、励ましてくれて、誕生日は一緒にお祝いしてくれて――  そういえば深冬とは暫く会っていないな。定期連絡の電話だけは欠かしていないけれど。どうしているのかな。  機械にコーヒー豆を補充しながら考え事をしていたけれど、来店者が目に付いたのでカウンターへ体を切り返す。  180センチ近くある身長に、大きな体躯。がたいの良い体に似合うグレーのスーツ。まるでアスリートを思わせる彼は―― (ショコラカプチーノさんだ!)  名前も知らない彼は笑うと愛らしい男性で、ここ2~3か月ほど、ほとんど毎日通ってくれている。うちの店の常連になってくれたのだろう。彼は毎日決まった時間にやって来る。恐らく近くのオフィスの人だろう。
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