第1話

6/15

852人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 私が彼のために作ったドリンクが出来上がったので、トレイに乗せてどうぞ、と渡すと声をかけられた。「あのっ」 「はい」 「岩谷さんの作って下さるショコラカプチーノは、どうしてそんなに美味しいのですか?」 「えっ」 「実は、他のお店で同じようにオーダーして飲んでも、すごく苦くて飲めないんです。このお店だから飲めると思っていたのですが…他の方が作って下さったものを飲んでも他店と味が変わらなかったので、岩谷さんがお休みの時は別の飲み物を頼むようにしていたのですが…どうしてあなたが作ってくれたものだけ美味しく飲めるのかな、って思いまして…」  私は即答した。「それは、オーダーするコーヒーがカプチーノだからですよ」 「どういうことですか?」 「カプチーノというのは、エスプレッソという特殊な方法で抽出したとても苦いコーヒーなのです。最初にご来店いただいた際、あなたは私にコーヒーが苦手だけれども、ショコラカプチーノを飲んでみたいが、なんとか美味しく飲めないか、とおっしゃいました。その時に配合を工夫しました。エスプレッソを極力少なめに、ミルクやショコラを多めに入れるようにしたのです。あなたのために、特別に配合したものになりますので、見た目が同じようでも味が全然違ってきます。他店で飲まれたら苦いのは当然です。説明不足ですみません」 「あ…そっか。思い出しました。ちゃんと最初に言ってくださいましたね。この町に来たばかりだったので、そのこと、うっかり忘れていました」 「いえ。きちんと説明ができていなかったのだと思います。申しわけございません」 「やめてください。謝るのは僕の方です」  頭を下げる私を、彼が慌てて制した。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

852人が本棚に入れています
本棚に追加