第1話

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  「あの…僕、コーヒーがあまりわからなくて…。よかったらもっと詳しく、コーヒーのことを教えていただけませんか? 実は僕、こういう者でして」  初めて彼から名刺をもらった。見ると『丸忠商事 フード推進事業部 営業 都築敏行(つづきとしゆき)』と書かれていた。 「丸忠商事って…」 「はい。その節はお世話になっております」  丸忠商事は、この店――スターリングの取引先だ。彼の会社から、私たちは珈琲豆を仕入れている。近くにオフィスビルもあり、従業員数も多いためスターリングを利用して下さる方も多い。 「驚きました。丸忠商事さんの方だったのですね」 「実は僕、引っ越しと共に転職をしまして。前職はエンジニアをやっていたのですが、フード事業部はまったくの畑違いの職種でして、しかもコーヒー飲めそうだからという見た目だけで人員不足のこの部に配属されてしまい…思っていたのと随分違うという結果です」 「そういったことは考慮いただけなかったのですね」 「雇ってしまえばこっちのもの、みたいなところがあるのでしょう。とりあえず猫の手も借りたいほど人手不足な部署をなんとかしたかったのだと思います。昨今、珈琲需要が増えているにも関わらず、弊社の販路拡大がうまくできていないところが現状で…おっと、こんな話、つまらないですよね。すみません。仕事のことを語るとつい熱くなってしまいます」 「いいえ、つまらなくないです。お仕事の話は楽しいので好きですよ」 「よかった…」  ほっと安心したように、ショコラカプチーノさんは言った。「岩谷さん、今度、カフェのこと詳しく教えていただけませんか。あなたのプライベートのお時間、僕に少しください」  これがきっかけで私とショコラカプチーノさんは、待ち合わせの時間を決め、外で会うことになった。
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