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晴れの日
世界には見事な青空が広がっています。雲ひとつありません。
明日も明後日もその次も雨が降ることはありません。雨は上がってしまったのです。
枯れた大地に、ほんのわずかな草が生えています。地表を覆った塩に耐えることのできた新しい種です。
多くの生き物が死に絶えました。そして、残った生き物は自らを変えました。あるものは体の仕組みを、あるものは行動を変え、雨のない世界で生きようとしました。
塩の上に立ち続けることはできません。彼らはたちまち水を吸われるでしょう。だから生き物は命の続く限り移動し続けなくてはならなくなりました。
人も動物も植物も、雨の世界を忘れ駆け回りました。自分たちはこの世界でしか生きていけないのだとわかっていたのです。
たとえ扉を潜って別世界に行ったとしても、彼らはこの世界に帰ってくるでしょう。
奇跡は起きなくとも、再びあの雨がこの世界に帰ってくると願っているのです。彼らは希望を捨てきれずにいます。彼らの居場所は姿が変わってもここにしかないのですから。
彼らは塩を舐めて生きていきます。その味は、かつて降り注いでいたあの雨の残した奇跡の味です。そしてそれは、あの日失った雨に流した涙の味でもあるのです。
雨は降っていますか?
いいえ。もう降ってはいません。
涙を流すことさえ忘れるほどに、彼らは今、生きることに必死なのです。
彼らの身近にあった雨は、もう上がられてしまわれたのですから。
幸せか、不幸かは、これからの彼ら次第なのです。
晴れですか。雨ですか。
それともあなたには他の奇跡が降り注いでいるのでしょうか。
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