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2024年5月31日
「ねえ、ちょっといいかな?」
休憩室で一息ついていると、同僚の真下朱美がわたしに手招きした。
また、何か企んでいるのだろうか?
わたしは給湯室に朱美といっしょに入った。
「今夜の合コン、一人抜けちゃうから、代わりに参加してくれない?」
やっぱりそんなことか。わたしは落胆のため息をついた。
「ね、ランチ奢るからさ」
「わかった。但し、わたしは彼氏を作る気ないからね」
ちゃんと釘を刺しておかないと、朱美がわたしと男をくっつけようとするのだ。以前、ピンチヒッターで合コンに参加させられた時、わたしを猛アピールしだしたので、わたしは恥ずかしくなって、トイレに行くふりをして帰った記憶があった。
「まだ、妹さんのこと、心に引っ掛かっているの?」
「うん。わたしさ、妹はきっと怖かったんだろうなあと思ってね。そう考えたら、能天気に幸せ噛みしめていいのかなってさ。あ、ごめん。暗くなっちゃうね」
「わたしが言うのもなんだけど、もう十二年だよ。そろそろ自分の幸せ考えないと。妹さんだって、いつまでもウジウジしているお姉さんなんか見たくないでしょう」
朱美の言うことは尤もだ。
合コン会場は渋谷の居酒屋だった。5対5の合コンで相手は社長や実業家の面々だった。
突然のピンチヒッターだったので、わたしの服装は白いコットンのワイシャツに黒のスラックスで女らしさが垣間見えない。わたしとしてはこれでいい。そもそも男漁りをしている時ではなかった。
父親は意識が戻ったものの、左半身に麻痺が残り、リハビリをしている。わたしもわたしで最近になって、亜美の夢ばかり見るようになった。亜美を忘れたいわけではなかった。
亜美はわたしのこの、胸の内にいるのだ。
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