2020年 3月11日

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 辻は以前も青切符を切られ、泣く泣く反則金を納めたばかりだ。  そのような、ある意味、バカらしい出費に辻はうんざりしていた。だから、顔見知りのよしみで見逃してくれと懇願した。  一念岩をも通すという格言通り、彼女、丸山貴和子は見逃してくれた。 「貧乏な学生からお金を巻き上げるまねはしたくないしね」と貴和子は言った。 「あの、本当にいいんですか?」 「ええ。その代わり、今夜わたしにつきあってくれたらね」  貴和子と辻が運命的な出会いをした瞬間だった。  貴和子は辻よりも3歳年上で、両親が警察官ということもあって、彼女も警察官になるものだと教育されてきた。  交通課に配属されてから、新人がやる駐車違反の取り締まりをやって三年経ち、貴和子も警察には腰掛け程度にしか考えていなかった。  その頃、辻は銀行に内定が出て、後は卒業論文を書く段になった時、すでに貴和子とは身体の関係も結んでいた。  辻は今まで同じ歳か、年下としかつきあってこなかったので、年上の貴和子は刺激的で大人の女性とつきあっているという誇りみたいなものを持つことができた。  それも相手が警察官ともなれば特別感もあった。  辻は社会に出たら窮屈な家を出て、貴和子と同棲するまでを夢想していた。ここまで女性にのめりこむことは本当に珍しく、辻は自分でも不思議な感覚だった。  辻はアルバイトを増やし、貴和子にプレゼントを買ったり、たまに高級なお店に連れて行ったりしていた。  高級料理店に行った際、貴和子は初めて仕事の愚痴をこぼした。いつも適当に肩の力を抜いて仕事をしていた彼女には珍しいなと、辻は思った。
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