2024年5月25日

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 わたしもマスコミからしつこく、亜美のことを訊かれた。わたしの職場である信用金庫にも押し寄せた。わたしの精神は決壊寸前だった。  その時、上司の課長がわたしの防波堤になってくれた。父親然り、課長然り、こういう時に男性というものは頼りになると思った。だから、わたしが一人暮らしをすれば、マスコミの格好のターゲットになると父親は考えた。わたしも父親と同じ考えに至ったので、一人暮らし計画は先延ばしとなった。  しかし、マスコミが妹は被害者にもかかわらず、妹がパパ活をして男をたぶらかしていただのと、根も葉もない誹謗中傷を始めた。  マスコミは犯人の男もパパ活でストーカーと化した被害者だと言って、被害者を叩き、加害者を擁護する論調になった。勝手すぎると思った。一番悪いのは加害者であるストーカーなのに。  加害者は陸奥丈雄という三十代の独身男性だった。亜美とはSNSで知り合い、二度ほど会ってデートをしたらしい。工場に非常勤で勤めていた陸奥は、なけなしのお金を亜美のために使った。三度目のデートを申し込もうとしたが、無視され、それが引き金になってストーカーになった。  メディアに頻繁に顔を出している社会学者は誰でも、ほんの些細なきっかけでストーカーになると言った。陸奥はストーカーになる前は堅実な男で、酒、ギャンブルすらやらなかった。そんな生真面目を絵に描いた男がストーカー殺人にまで手を染めてしまうという現実に、市民は慄然としたことだろう。  父親はみんな、どうして加害者を擁護する方向に向くのだろうと、悔し紛れにわたしに訊いた。それはわたしが訊きたかった。もちろん、明確な答えをくれるものなどいなかった。
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