7月20日

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7月20日

 私は事件が起きたトンネルを訪れた。  いつ来てもシーンとしている。  柄にもなく、花束を携えていた。  やはり、私は真実を述べるべきか。刑務所の中でずっと考えていた。  このまま、秘密を墓場まで持って行くのもいいだろう。だけど、冥土に行く瞬間に後悔しないだろうか。  私には、この秘密は重すぎる。  とぼとぼと彼女の殺害現場まで歩く。草履を履いてきたのは迂闊だった。せめてスニーカーにでもすればよかった。  花屋で適当に花を見繕ってもらった。十二年前のストーカー殺人事件の犯人だった男が目の前にいるとは、店員も予想はしていなかっただろう。私に花束を渡す時ににっこりと微笑んでいた。  私は花束を置くと目を瞑り、合掌した。  静かだった。私は満ち足りた気分だった。  刑務所で毎週日曜日に、任意の受刑者を集めて、礼拝が行われていた。  牧師の言葉に耳を傾けながら、私は自身の過ちや罪に正面から向き合った。素晴らしい体験だった。  自然と涙が零れた。どうして今まで、このような素晴らしい説教に会わなかったのか。もう、四十三だけど、人生をやり直せますかと、牧師に問うた。牧師ははっきりと言った。やり直すのに遅すぎることはないと。  私はつい先日も、同僚のクリスチャンから日曜礼拝に誘われたばかりだった。  だから、来週の日曜日には顔を出すつもりだ。  その前に、今までの罪を浄化しなければと思った。  その刹那、背中にヒヤリとした感触を感じた。その後には激しい痛みが襲った。私は咄嗟に鋭利な刃物で刺されたと悟った。  今まで祈りに集中していて、背後の影に気づかなかった。  振り返るとフードを被った影が私を嘲笑っていた。 「知り過ぎたようだね」  影はそう言った。  私は膝から頽れた。最後に見た景色は、トンネルの天井だった。
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