7月23日

1/3
前へ
/87ページ
次へ

7月23日

「陸奥が亡くなった...」  赤木が力なく言った。  例のトンネルで陸奥が何者かに刺されて、意識不明の重体だった。意識を取り戻してくれることを期待したが、結局、意識が回復することはなかった。  俺は愕然とした。本ボシだと思っていた陸奥が一転、被害者になった。  赤木と俺は警察署にいた。  陸奥が水沢亜美の殺害現場で負傷して見つかった。背中を刃物で刺されてはいたが、まだ意識はあった。  病院に運ばれて、まだ息はあったが、話せる状態ではなかった。  陸奥が犯人を見た可能性はあったが、意識が戻ることを期待した。  だが、願いは虚しく、陸奥は息を引き取った。  赤木は手を組み、思案顔になった。  俺は意味もなく、部屋の中をウロウロしだした。 「さて、辻くん、一連のストーカーは彼だったのか、それとも別にいたのか...」 「金目のものを盗られていないから、行きずりの強盗ではないと思います。なら、なぜ、陸奥は刺されたのか?考えられることは、やはり怨恨が濃厚でしょう」  赤木は納得の行かない表情を作った。 「陸奥に恨みのある人間と言ったら、水沢亜美の身内以外、考えられないじゃないか」  辻は祥子を思い起こす。彼女にはこんな残忍なことはできない。なら、誰が? 「口封じ...」  俺は無意識に呟いた。 「なんだって?」 「赤木さん、犯人は口封じで陸奥を消したんです。おそらく陸奥は、真実を語ろうとしたに違いありません」 「正義感に駆られてか?」 「陸奥は刑務所に収監されている間に、心を入れ替えたのでしょう。だからこそ、出所したら真実を白日の下に晒そうと思った。真犯人はこのままでは、自分の正体が明かされると危惧して、やむなく殺した...」  よく出来た筋書きだが、陸奥は利用価値がまだ、あったような気がした。 「我々もトンネル近辺の住民に怪しい人影を見なかったか、聞き込みをしているが、あのトンネルは滅多に人も車も通らない無人の穴倉だ。目ぼしい情報は期待できない」  赤木は悔しそうに唇を噛んだ。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加