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7月23日
「陸奥が亡くなった...」
赤木が力なく言った。
例のトンネルで陸奥が何者かに刺されて、意識不明の重体だった。意識を取り戻してくれることを期待したが、結局、意識が回復することはなかった。
俺は愕然とした。本ボシだと思っていた陸奥が一転、被害者になった。
赤木と俺は警察署にいた。
陸奥が水沢亜美の殺害現場で負傷して見つかった。背中を刃物で刺されてはいたが、まだ意識はあった。
病院に運ばれて、まだ息はあったが、話せる状態ではなかった。
陸奥が犯人を見た可能性はあったが、意識が戻ることを期待した。
だが、願いは虚しく、陸奥は息を引き取った。
赤木は手を組み、思案顔になった。
俺は意味もなく、部屋の中をウロウロしだした。
「さて、辻くん、一連のストーカーは彼だったのか、それとも別にいたのか...」
「金目のものを盗られていないから、行きずりの強盗ではないと思います。なら、なぜ、陸奥は刺されたのか?考えられることは、やはり怨恨が濃厚でしょう」
赤木は納得の行かない表情を作った。
「陸奥に恨みのある人間と言ったら、水沢亜美の身内以外、考えられないじゃないか」
辻は祥子を思い起こす。彼女にはこんな残忍なことはできない。なら、誰が?
「口封じ...」
俺は無意識に呟いた。
「なんだって?」
「赤木さん、犯人は口封じで陸奥を消したんです。おそらく陸奥は、真実を語ろうとしたに違いありません」
「正義感に駆られてか?」
「陸奥は刑務所に収監されている間に、心を入れ替えたのでしょう。だからこそ、出所したら真実を白日の下に晒そうと思った。真犯人はこのままでは、自分の正体が明かされると危惧して、やむなく殺した...」
よく出来た筋書きだが、陸奥は利用価値がまだ、あったような気がした。
「我々もトンネル近辺の住民に怪しい人影を見なかったか、聞き込みをしているが、あのトンネルは滅多に人も車も通らない無人の穴倉だ。目ぼしい情報は期待できない」
赤木は悔しそうに唇を噛んだ。
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