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俺はその足で祥子の勤務先である信金に向かった。受付に行くなり、正式な身分証を持っていないことに気づいた。
どうしようかと悩んでいる時、俺は名案を思い付いた。
「番号札105番の方、2番窓口へどうぞ」
機械的なアナウンスに呼ばれ、俺は祥子がいる窓口へ向かった。
突然現れた俺に、祥子は目を丸くした。
「辻さん、どうして?」
「どうしてって、俺、預金通帳作りに来たんだけど、元ストーカーは作れないのかな?」
「まさか。うちはどんな人でも歓迎します。銀行みたいに人を選ばないので。一万円はお持ちですか?預金は一万円からになります。それから、身分証と印鑑も用意してください。この用紙に必要事項を記入してお待ちください」
俺は記入台で必要事項を記入した。
そういえば、依頼人の職場を訪ねたのは初めてかもしれない。
横目で彼女の働きぶりをつぶさに観察した。
彼女のてきぱきとした働きぶりは好感が持てた。
「あのさ、陸奥が息を引き取った。多分、口封じのためにやられた思う。一旦、この件から手を引いてほしい」
淡々と祥子は事務手続きを済ませていく。
「では、お客様、こちら、カードと通帳になります。暗証番号は三か月に一度替えてください。それから、印鑑はなくさないようにお願いします」
「だから、とりあえず、毎日の送り迎えは俺が...」
「結構です。わたし、宮子さんに送迎してもらってますから」
「宮子さんて、新しい峻三氏の妻か?」
「もういいでしょう。辻さんは早く陸奥を殺害した犯人を捕まえてください」
俺は何かを言おうとしたが、次の番号が呼ばれてしまったので、退散した。
俺が自宅の部屋に帰り着くと、エプロン姿の男がキッチンに立っていた。
包丁をまな板の上で器用に動かして、鍋の中に具材を落とし込んでいる。
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