7月23日

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 俺はその足で祥子の勤務先である信金に向かった。受付に行くなり、正式な身分証を持っていないことに気づいた。  どうしようかと悩んでいる時、俺は名案を思い付いた。 「番号札105番の方、2番窓口へどうぞ」  機械的なアナウンスに呼ばれ、俺は祥子がいる窓口へ向かった。  突然現れた俺に、祥子は目を丸くした。 「辻さん、どうして?」 「どうしてって、俺、預金通帳作りに来たんだけど、元ストーカーは作れないのかな?」 「まさか。うちはどんな人でも歓迎します。銀行みたいに人を選ばないので。一万円はお持ちですか?預金は一万円からになります。それから、身分証と印鑑も用意してください。この用紙に必要事項を記入してお待ちください」  俺は記入台で必要事項を記入した。  そういえば、依頼人の職場を訪ねたのは初めてかもしれない。  横目で彼女の働きぶりをつぶさに観察した。  彼女のてきぱきとした働きぶりは好感が持てた。 「あのさ、陸奥が息を引き取った。多分、口封じのためにやられた思う。一旦、この件から手を引いてほしい」  淡々と祥子は事務手続きを済ませていく。 「では、お客様、こちら、カードと通帳になります。暗証番号は三か月に一度替えてください。それから、印鑑はなくさないようにお願いします」 「だから、とりあえず、毎日の送り迎えは俺が...」 「結構です。わたし、宮子さんに送迎してもらってますから」 「宮子さんて、新しい峻三氏の妻か?」 「もういいでしょう。辻さんは早く陸奥を殺害した犯人を捕まえてください」  俺は何かを言おうとしたが、次の番号が呼ばれてしまったので、退散した。  俺が自宅の部屋に帰り着くと、エプロン姿の男がキッチンに立っていた。  包丁をまな板の上で器用に動かして、鍋の中に具材を落とし込んでいる。
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