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7月25日
この日は久々に雨だった。
気温も三十度を下回り、過ごしやすい一日だった。
わたしも一通り、業務を終えると帰り支度を始めた。
一件のメールが届いていた。
「ごめんなさい。今日は峻三さんの付き添いで迎えに行けません」
宮子さんからだ。仕方ない。いつまでも宮子さんに甘えるわけにはいかない。
わたしは傘を持って外に出た。
外は本降りだった。雨音が耳にうるさい。
傘をさして歩いていると、わたしは急に心細くなった。宮子さんに依存し過ぎだと自分を戒める。
強くならなきゃ。わたしはそう、自分に言い聞かせる。そうすると、雨音も心地よい旋律となる。
雨の中、わたしは歩く。
種村とは未だ距離を置いている。そろそろ仲直りしたい。
そうだ。明日は休日なので、種村を家に招待しよう。互いに話せば、打ち解けるだろう。わたしは心が浮き立った。
自然と、雨雨ふれふれ母さんがを口ずさんでいた。
後ろから足音がする。いや、気のせいか?この間も、後ろから足音がすると思ったら、警察官だった。
幽霊の正体見たり枯れ尾花みたいなことなのだろう。
とにかくわたしは自宅へ急いだ。
だが、足音が迫って来る。わたしが歩調を緩めると、足音はそれに倣うように緩まる。
わたしの中でフードの影が過った。陸奥は多分、フードの影にやられた。ならば、わたしも?
わたしは駆け出した。雨は今までよりも強まり、わたしは大きな水たまりに足を突っ込んだ。水が跳ね上がり、ズボンをしたたかに濡らした。
わたしは転びそうになりながらも、大通りに出てタクシーを拾った。
車に乗ってしまえば、追っては来れないだろう。
タクシーに乗り込むと、一件のメールが届いた。
恐る恐るタップする。
「わたしは見ているよ。ずっとずっとね。水たまりに足を突っ込むなんて、おっちょこちょいだね。風邪引かないようにね。愛してるよ」
わたしは思わず、スマホを落とした。
なぜ、わたしをストーカーするの?わたしは何かを知り過ぎてしまったのか。わたしはただ、膝を折って震えるだけだった。
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