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「いや、怒ってなんてないよ。ただ、俺は悔しい。肝心な時に、君の傍らにいられなくて」
「大丈夫よ。わたし、種村さんも頼りにしてるから」
種村の目つきが俄かに変わった。
そう言えば、家に来た時から種村のテンションが高かった。
「そうだ。なあ、今夜は無礼講といかないか」
突然、種村は立ち上がり、わたしの背中に回って、首に手を回してきた。
「た、種村さん。あの...」
「僕のさ、画廊がさ、経営難でさ。首が回らない状態で、とにかくさあ、眠れない日が続いてたんだ。だから、薬ばかりに頼ってさあ...」
わたしは恐怖で身体が震えだした。血の気が引いた状態で、でも、どうしていいかわからない。
「ねえ、もうすぐ互いに結婚するんだし、一回くらい、寝よう」
いやいやするわたしを椅子から引きずるようにして、わたしの身体を羽交い絞めし、寝室の方へずるずると引きずり込む。
「やめて!やめて!お願い。種村さん、一体どうしたの!おかしいわ!」
それでも種村は憑りつかれたように、嫌がるわたしをベッドに押し倒した。
そして、わたしに馬乗りになる。もはや種村ではない。少なくともわたしの知っている種村ではない。
種村はニヤニヤ笑いながら、わたしの服を脱がせ始めた。わたしは抵抗するのをやめて、なすがままになった。
種村がやっていることは、あのストーカーと同じだ。まったく卑劣だ。
その時だった。ピンポーンとインターホンが鳴る音が響いた。
種村は無視して、手を止めなかった。だが、インターホンは執拗に鳴り続けた。
種村は舌打ちをし、一旦、ベッドから離れた。その隙を見て、わたしは玄関まで走った。インターホンはわたしには福音だった。
玄関のドアを開けると、そこには辻祐介がいた。わたしは辻にダイブした。辻の力強い腕がわたしを包んだ。
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