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「ねえ、少しドライブでもしない?家の中にずっといても、息が詰まるでしょう?」
宮子さんがわたしを慮って、ドライブに誘った。
気温は三十度を超えて、猛暑日だった。外に出るのは億劫だった。だが、宮子さんの言う通り、ずっと家の中にいても、何かがあるわけではない。そう考えると、素敵な提案だった。
宮子さんはわたしを軽自動車に乗せた。
この軽自動車は、父親が画商から譲り受けたものだった。運転をほとんどしない父親には無用の長物だった。わたしもわたしで、ハンドルを握ることはあまり、ないので、今では宮子さんの私物と化していた。
「また、海ですか?」
車内にクーラーを入れた宮子さんは何も答えず発進させた。
陽射しが強かった。今年は昨年以上に猛暑になるという。
亜美は夏が好きだった。夏はいろいろなイベントがあるから好きだと言っていた。花火、キャンプ、夏祭り...。活発だった亜美はいつも日焼けしていた。わたしはインドアで、外に出ないので、肌はいつも白い。二人並んで歩くと、オセロみたいだとからかわれた。
急に亜美のことを思い出して、哀しくなった。
「そういえば、祥子ちゃんが免許取り立ての頃、わたしが助手席で、亜美ちゃんが後ろに座って、恐怖のドライブをしたわね」
「ひどいな。わたしは安全運転だったし。宮子さんの方が荒っぽい運転だったよ」
「後ろからピーピー鳴らされてたでしょう」
「後ろのドライバーが非常識だったんです」
わたしは唇を尖らせた。
その時、わたしのスマホが震えた。わたしはスマホの新着メールをタップする。
「今どこですか?もし、平川宮子さんといっしょなら、今すぐ離れてください」
わたしは目を疑った。もう一度、メールを見た。アドレスは辻のものだ。
「誰かしら?もしかして、白馬の王子さまかしら?」と宮子さん。
わたしの脇腹に冷たい塊があてられた。
「返事はしないでちょうだい。元ストーカーだけあって、あなたのスマホにはGPSが取り付けられているはずよ」
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