13人が本棚に入れています
本棚に追加
白い腕は持ち上げたぬいぐるみを裏返した。クマのぬいぐるみの背中部分にはチャックがある。それをゆっくりと開けていく。
透子は恐ろし過ぎて、忍の腕にしがみついた。彼も怖がっているのか、震えは重なっていった。
チャックを開けた中には、白い綿が入っている。その綿をかき分けていくと、奥底に、ある黒い塊のようなものを見つけた。
手のひらに収まるほどの大きさ。レモンのように楕円形をしている。黒い塊は、なにかの種のように見えた。
白い腕の持ち主は自分の左の手のひらにその黒い種を乗せると、右の指先でチョンチョンと触れてみせた。
恐ろしいことに、黒い種には横一線の筋が入り、それが縦に広がった。口だ。口の中には歯がある。目も鼻もない。口だけが存在している。忍から教えられて知っていた、あの怪者そっくりだった。
「う、うわぁ、う、うそだろ……」
忍はその場でしゃがみ込み、頭を抱えながら声を漏らす。通行人が不審そうな目で通り過ぎていったが、そんなことを気にしている余裕はなかった。透子はあまりの恐ろしさに涙が溢れてくる。
『まだ、まだだよ。もう少し。もうすぐ瀬古忍というセンニュウシャがここへやって来るはずだから、彼がここにいる怪者を倒してからだ。それから目覚めなきゃ。土がなくてもきみたちは成長する。苦労したけど、ようやく完成だ。きみたちは僕の分身。もし仮に僕が死んだとしても、必ずあいつらを殺してくれよ。それまではもう少し眠ってて。ははははは』
黒い種をぬいぐるみの中にしまい、チャックを閉める白い腕。彼はその後、何事もなかったように眠り続ける柚葉の隣りにそのクマのぬいぐるみを置いた。
映像はそこで終わっている。
「ねぇ、忍くん、これって……」
透子は震える声で彼に話しかける。ぬいぐるみの中に種が入っていたということは、種は成長し、再び怪者となって柚葉を襲うということなのか。
頭を抱えている忍。彼はそこでなにかに気づいたように、「……ってことは」と呟いた。
「なに? どうしたの? なにか気づいたの?」
「……透子さん」
顔面蒼白のまま顔を上げる忍。唇は震え、目元は赤くなっていた。
「なに? なによ、どうしたの?」
ゆっくりと立ち上がった彼は、顔を俯かせて言葉に変えた。
「……今の、クマのぬいぐるみ……。あれ、他の人も、持ってた」
最初のコメントを投稿しよう!