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忍の目
「こんばんわ、柚葉ちゃん」
案内された子ども部屋には、小さな子どもが一人、ベッドに腰かけていた。まだ保育園児だというこの女の子が、依頼主の娘の中山柚葉だ。
「柚葉、お兄さんたちがあなたのこと診てくれるって」
母親は心配そうな声で娘に声をかけている。
「ママ、誰ー? この人たち?」
可愛らしい少女は、クマのぬいぐるみを手に抱えながらそんなことを尋ねた。
「突然お邪魔してごめんね。はじめましてかな。昨日、きみは眠っていたから知らないか。僕は瀬古忍。こちらは、早瀬透子さん」
忍に紹介をされた透子は、彼の背後からひょこっと顔を出して柚葉に声をかける。
「柚葉ちゃん、こんばんわ。今日はよろしくね」
忍は学制服であるブレザーにネクタイ姿の格好だった。
彼はリビングから持ってきた椅子を運び、柚葉の目の前に移動させた。柚葉はベッドの端に両足をぶらぶらとさせながら座っている。
「柚葉ちゃん、今からね、僕たちがきみの中にいるわるいやつをやっつけるから」
「わるいやつ?」
不思議そうな表情で忍を見る柚葉。長い髪の毛を二つに結んでいる。首を斜め左に傾ける仕草は人形のように可愛らしかった。
「そうだよ。きみの心の中にはね、普通は入り込めないようなわるい存在が入ってきて、柚葉ちゃんのことを苦しめようとしているんだ。だから僕たちがそいつをやっつけるんだよ」
「ふーん」とあまり響いていない様子の柚葉は、そのままベッドの後ろに倒れて、持っていたぬいぐるみを抱きしめる。やっつけるだってー、と言いながら楽しそうにきゃははっと笑い、足をバタバタとさせた。
落ち着きのない幼児特有の行動。
「忍くん。とりあえず準備だけはするね」
透子が手際よく鞄から荷物を取り出して机の上に置いた。ノートにペン、それにスマートフォンのカメラ機能を作動させている。ストップウォッチも忘れてはいない。それらはこのあとの行動には必須のアイテムだった。
「カメラを回させていただきます。お母様はこのままここで見てくださってもいいですし、別室で待機されていても構いません。もしかすると、柚葉ちゃんの行動に驚かれることもあると思いますが、そこは我々が必ず彼女を救いますので安心してください」
透子は冷静に言葉を連ねる。高校一年生の忍とは三つも歳が離れている大学生。忍から見ると、随分と大人に感じる。
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