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「あなたは、早瀬トモオミのことを知ってる?」
「は? なんだ女? お前、俺に聞いているのか? お前ごとき人間が、俺に質問をしているのか?」
「知ってるか知らないかだけでいいの。どっち?」
忍は奥歯を噛んだ。その問いは、彼女にとってとても意味のあるものだったから。
「答えてほしいか? 答えてほしけりゃ、俺の足の裏を舐めろ。そうすりゃ答えてやるさ。あはははは」
「わかった。知らないみたいね。ならいい。ごめんね忍くん。あとはお願い」
「うん。任せて」
「はあ? お前ごときになにができる? やってみろ、クソガキ!」
「できるさ。お前を倒して、柚葉ちゃんを救うことが」
忍は鞄から三色のお札を取り出し、それを左手で掴んだ。そして後ろを振り返る。別の椅子に座っている透子と目が合い、軽く頷いた。もう一度柚葉に向き直る。
『それじゃあ、いきます』
忍は頭の中でそう声をかける。すると、透子からも同じように声が返ってきた。
『いつでもいいよ』
二人はテレパシーで会話ができた。声には出さず、頭の中のみで話し合うことが可能だった。これは忍と透子の二人の間に存在する特別な能力。他人の会話を聞くことも、別の人物に話しかけることもできない。二人に作られた意思疎通の方法だった。
ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべる怪者。もはやそれは忍が知っている少女ではない。
その彼女の瞳を強く見つめる。
「いきます。中山柚葉の、セカイへセンニュウする」
忍の意識は、柚葉の瞳の奥側にある空間へと飛んでいく。子ども部屋にいたはずの忍は、真っ暗な世界に立っていた。それは光のないトンネル。そこをひたすら歩いていく。
すると、視界の先に一筋の光を見つける。光に近づいていくと、一つの白いドアがあった。それはセカイへのトビラ。そのトビラを開けた先に、柚葉のセカイがある。
忍は躊躇することなくそのトビラを開けた。
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