ONE DAY

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ONE DAY

◇◆◇ ある日、俺が住むアパートの隣の部屋に外人が引越してきた。 チラッと見たら、欧米系白人男性でモデルばりなイケメンだ。 『うわ、なんかやだな』 それが第一印象。 俺は背も高くないし、顔はどこにでもいそうな平凡な顔だ。 あんなイケメン、しかも外人が隣人とか、できるだけ関わりたくない。 なのに、来なくていいのに、外人は引越し後に挨拶にやって来た。 俺はドアを開け、背の高いイケメンを見上げて緊張していたが、外人は人懐こい笑顔を浮かべて話しかけてくる。 「コンド、トナリニ引っ越しテキマシタ、ハイドリッヒとイイマス、名前はジョンナノデ、ジョンと呼んでくださーい、ニッポンデハ、引越しシタラアイサツするから、ダカラ来ました、アト、ドイツからキマシタ、これドウゾ」 どうやら日本式の引越しの挨拶を誰かに教わったらしく、小さな包みを差し出してくる。 「ああ、わざわざすみません、俺は西平航平と言います」 イケメン白人とか、目を合わすのも変にドキドキするが、とりあえず俺も名を名乗って挨拶し、この人はドイツ人なんだと思った。 欧州人らしく、髭を生やしていて目はブルー、当たり前にスタイル抜群で、やっぱ俺は腰が引けてしまう。 「トナリなんで、よろしくオネガイシマース、それではお邪魔シマシタ」 外人はきちんと頭を下げて立ち去った。 「はあ~」 なんか力が抜けてため息が出たが、日本語が喋れるんだな……って、ジョンと名乗った外人がいなくなった後で気づいた。 俺は某運送会社に勤めている。 市内の集配が主な仕事だ。 仕事はかなり忙しく、帰宅は大体夜8時を過ぎてしまう。 今日もまた1日が終わり、やっとアパートに帰ってきた。 「あーあ、疲れた」 宅配の仕事はただでさえ肉体労働だが、クレーマーや不在などで精神的にも疲れる。 ベッドとローテーブル、簡素な棚くらいしかないワンルーム。 誰もいない部屋に自分で明かりをつけるわびしさよ……。 俺は高卒で今の会社に就職し、すぐに実家を出て一人暮らしを始めた。 慣れた筈なんだけど、時々寂しくなる。 一応自炊もするが、面倒だから今日はコンビニ弁当で済ませる事にした。 作業着の上着を脱いで、先に晩飯を食べる事にして、テーブルの前にあぐらをかいて座った。 すると、グラグラっと揺れがきた。 「地震か?」 ちょっとびっくりしたが、今のだと震度3ってところだろう。 たいした事はないと思い、コンビニのレジ袋から弁当とペットボトルの茶を出そうとした時、突然ピンポンが鳴った。 こんな夜に誰だ? 不審に思っていると、ピンポン連打、ドアまで叩いてくる。 「えっ、ちょっ……なに?」 何事かと思ってビビっていたら、裏返った声で叫び声がした。 「西平サン、タスケテ、オネガイします、タスケテください!」 このイントネーションのおかしな話し方は……隣のドイツ人ジョンだ。 なんだか酷く慌てているようなので、すぐに玄関に行ってドアを開けた。 「はい」 こんな夜になんなんだ? と思っていたら、ジョンは泣きそうな顔で言ってきた。 「今、ジメン揺れマシタ、コワイです、オネガイです、少しだけ部屋にイレテクダサイ」 「え、あ……?」 ドイツじゃ地震はないのか? たかが震度3なのに、ガタガタ震えてめちゃくちゃ怖がっている。 「オネガイです、スコシダケ一緒にイテください」 (一緒にって……子供じゃあるまいし、大の大人が震度3の地震でそこまでびびるか?) 「いや、でも、もうおさまったし……」 いくら隣人でも、親しくもない外人を家にあげるのは抵抗がある。 「オネガイシマス! コワイです! ホントニホントニ、コワイ」 だが、ジョンは目に涙を浮かべて頼み込んでくる。 せっかくのイケメンなのに、イメージが一瞬でぶち壊れた。 というか、これは本気で怖がってるし、中に入れないわけにはいかないだろう。 「わかりました、じゃ、どうぞ上がって」 「サンキュー、ダンケシェン、ありがとう、オジャマシマス」 上がるように促したら、ジョンは英語、ドイツ語、日本語で礼を言って、本当に助かったという表情をして部屋に上がってきた。 にしても、やっぱすげー背が高い、190センチは余裕でこえてるだろう。 だから、鴨居で頭を打たないか心配になったが、ちゃんとわかってるらしく、頭をさげて部屋の中に入った。 とりあえずテーブルの前に座って貰ったが、大きなガタイを縮めて体育座りで膝を抱き、ガタガタ震えている。 ロン毛を後ろで束ねているが、欧米人にありがちな緩いウェーブがかかった感じだ。 日本人ならほぼロン毛イコール落ち武者になるが、欧米系白人はロン毛が似合う。 ついでに髭も。 「珈琲でも入れるよ、インスタントだけど、ちょっと待ってて」 「オオ、アリガトウゴザイマス、それにしても……地震コワイ」 俺がキッチンへ行って珈琲の用意をしていると、ジョンはまだ膝を抱いてビビっている。 けど、ふと疑問に思った。 「なあジョン、日本に来てから何年も経つんだろ? 今まで地震があった時はどうしてたんだ?」 日本語が喋れるって事は、日本に来てある程度の年数が経ってると思うし、地震だって何度も経験してる筈だ。 「アア、それは……いつも誰かにヘルプを求めマシタ、でもイツモ断られマシタ、だからワタシハいつもじっとタエマシタ」 ま、そうだろうな……。 あんな勢いで押しかけられたら、誰だってお断りするだろう。 女性なら尚更だ。 そうする間に珈琲ができた。 マグカップを持ってジョンのところへ行った。 「はい、これでも飲んで落ちついたら?」 「オー、アリガトー西平サン」 「ああ、航平でいいよ、俺もジョンって呼ぶから」 「ワカリマシタ、コウヘイ、優しい、珈琲美味しいデス、こんなに優しくサレタのは初めてデス」 ジョンは珈琲を飲んで話をするうちに、すっかり落ちついたようだ。 俺は第一印象だけで判断していたが、実際話をしたら、ジョンは気さくないい奴で、イケメンだからって全然鼻につくようなところもない。 それから10分くらいたわいもない話をして、ジョンは自分の部屋に帰って行った。 …………………………… それからまた目まぐるしく日々が過ぎていったが、地震をきっかけに、ジョンは俺の部屋に遊びに来るようになっていた。 勿論、本当に地震が起こった時はビビリまくってやって来る。 俺も最初は大袈裟すぎないか? と思ったが、ドイツでは地震がないと聞いたし、それなら怖がるのも無理はないと思った。 だからそれはいいんだが、ドイツではビールをジュース感覚で飲むらしく、遊びにくる度にビールを持ってくる。 ちなみに彼は留学生でまだ大学生だが、20歳だから酒は飲んでも構わない。 俺は高卒で社会人をやってて同じく20歳だけど、正直、酒はあんまり……。 それよりも、ジョンが同い年だと聞いてびっくりした。 どこから見ても20代後半くらいに見える。 ジョンは俺の事を甚く気に入ったらしく、気づいたら毎日来るのが当たり前になっていた。 日本人で特別親しい人がなかなか出来ないらしく、それを聞いたら無下に断わるのはどうかと思ったし、ジョンはドイツについて色んな事を話してくれるので、俺もジョンがやって来るのは満更じゃない気持ちだった。 ただひとつ気になる事がある。 それはジョンは外人だから、ボディタッチが多いという事だ。 ハグは嬉しい時とかにやたらとやる。 それに、最近はハグ以外でも肩を抱くとか、体に触れる事が増えたような気がする。 そんなある夜、今夜も仕事で疲れて帰宅した。 そしたら、早々とピンポンが鳴った。 まだシャワーも浴びてないが、まぁいいだろう。 玄関に行ってドアを開けたら、すっかりお馴染みになったイケメンの白人が立っている。 「コウヘイ、また来たよ、上がっていい?」 「ああ、上がってて、俺、風呂に入るから」 「ワカッタ」 俺はジョンを部屋にあげて風呂場に行ったが、そう言えば、まだジョンの部屋に行った事がない。 地震がきっかけで俺の部屋にやって来た為、暗黙の了解でジョンが俺の部屋に来るのが当たり前になっている。 ジョンの部屋にも行ってみたいが、まぁ~別にいっか。 そんな事を考えながら、洗い終わって腰タオル姿で部屋に戻った。 ジョンはテーブルの前に座り、ビールを飲んでいる。 テーブルの上には予備のビールが数本、つまみにチーズ鱈が置いてある。 チーズ鱈は俺が教えてあげたら、はまってしまってしょっちゅう買うようになった。 俺はクローゼットに歩いて行ったが、ジョンが驚いたように声をかけてきた。 「オー、スッポンポン」 ほろ酔い気分なのか、顔が赤らんでニヤついている。 「えっ?」 俺はスッポンポンじゃない。 「タオル巻いてるじゃん」 「ニッポンではすぐにスッポンポンにナリマス、エロい」 なんかやたら日本人が裸になってるように言うが、心外だ。 「なに言ってんだよ、外国なんかヌーディストビーチがあるし」 「タシカニあります、でもあれは広い場所デス、トユーカ、誤解しないでクダサイ、コウヘイとは仲良しダカラ、カマイマセン」 「なんだよ~、よくわかんねぇな~」 俺はブツクサ言いながら下着を穿いてジャージを着た。 「コウヘイ、ハヤク来て」 「またビール? 俺はいいよ」 「いいからイイから、ハヤク」 ジョンは上機嫌だ。 手にしたビール缶をグイッと傾けてひと口飲み、ハイテンションで手招きする。 「はいはい、今行く」 ワンルームの狭い部屋で男ふたり、小さなテーブルを前に並んで座った。 今日のジョンはロン毛を束ねずにそのままにしているが、メタラーみたいな髪型も、適当に伸びた髭も、何故こんなにしっくりとくるんだろう。 なにもしなくても超カッコイイ。 しかも体つきも筋肉質で恵体だ。 ……羨ましい。 ジョンには彼女がいたそうだが、ドイツ人だったんで遠距離恋愛になり、自然消滅したらしい。 そりゃこれだけカッコイイと彼女がいない方が変だ。 俺は彼女なんかいた事がないし、ジョンの容姿を見るだけで……変な意味じゃなく、男の俺でも惚れ惚れしてしまう。 それからふたりでテレビを観てどうでもいい話をした。 ジョンは日本のギャグは今ひとつわからないが、アニメは好きだと言う。 有名なドラ〇ンボール、NAR〇TO、ワン〇ースなどのDVDを持ってるらしい。 俺は最初はビールを飲むつもりはなかったが、ジョンがしつこく勧めるから付き合って飲んだ。 普段飲まないから、アルコール度数はしれてるのに、ひと缶空けただけで頭がぼーっとなり、やたら気分が良くなった。 バカみたいにゲラゲラ笑ってふざけ、ジョンの髪をクシャクシャにしてやった。 「夜叉にしてやる、あはははっ!」 ボサボサヘアーになったジョンを見たら、やたら可笑しくてバカみたいに笑ってた。 「oh……コウヘイ、ヨッパライ」 ジョンは困ったような顔をする。 「ああ、俺に飲ますから悪いんだぞ」 俺は反省なんかしないぞ。 「コウヘイ……」 ドヤ顔で言ったら、いきなりガバッと押し倒された。 「あ……え……なにやってんの?」 上になるジョンの顔をポカーンと見つめていた。 「カワイイ」 ジョンは真面目な顔で言って顔を近づけてくる。 「フッ……! んんんっ!?」 一瞬何が起きたのか分からなかった。 唇が重なってる。 俺はジョンにキスされている? 酔いが回った頭でようやく現実に起きてる事を理解した。 理解したが、酔ってるから力が出ない。 というより、ガタイのいいジョンを退かす力なんか……あるわけがなかった。 唇を吸われ、何故、どうして? ジョンは彼女がいたと話してたのに。 俺はのしかかるジョンの下で藻掻きながらパニックになっていた。 そうするうちにジョンはキスをやめたが、俺の両手首を押さえつけて首筋にキスをしてくる。 俺はホモじゃない。 男にこんな事をされるなんて……信じられなかった。 「ジョン、やめろー! な、冗談だろ?」 パニクりながらジタバタ藻掻いて叫んだ。 「ワタシハ、コウヘイの事スキです、カワイクてタマラナイ」 俺が可愛い? つかなにこれ……告白? ジョンはそっち側の人間だったのか? いや、ちょっと待て……! 「でもさ、ジョンは彼女いたんだろ?」 じゃあ、女の子と付き合ってたという話はなんなんだ? 「ワタシハ、バイ・セクシャルです」 「え……、えぇっ!」 バイ・セクシャル……。 マジか? 俺は混乱したが、その間にジョンは俺の服を捲りあげて乳首を吸ってきた。 「わー、ちょっと待って待って、俺はそういうのはない」 このままジョンに抱かれるとか、マジで笑えない。 俺は必死の思いで抵抗した。 「アイシテル、ワタシハ、コウヘイの事、どんどんスキにナッタ、嘘ジャナイ、ホントです、スキ過ぎる」 だけど、欧米系は情熱的なのか? 熱く語ってやめようとしない。 俺は全力でジョンを押しのけようとしたが、情けない事に同じ男でも勝てないものは勝てないのだ。 「コウヘイ、カワイイ……、凄くカワイイ」 ジョンは片手を下にやって股間をまさぐってくる。 俺は急に怖くてたまらなくなってきた。 こんな事、予想もしてなかったし、当然ジョンをそういう目で見てなかった。 まさかな展開でこのまま掘られるのは嫌に決まっている。 「ジョン、俺はバイ・セクシャルじゃない、ノーマルだ、ほらノンケってやつ? だからさ、頼むからやめてくれ」 泣きそうになって訴えた。 「コウヘイ……どうしてもダメ?」 ジョンは悲しげな目をして聞いてくる。 「無理……」 男が男に襲われる。 俺は宅配業をやってるし、そこそこ力はある。 けれど、圧倒的な力の差があると、男同士でも抗えない。 それがどんなに怖い事なのか身に染みてわかり……涙がこぼれそうになってきた。 「アイシテル……我慢デキナイ」 それなのに、ジョンは興奮気味に言ってズボンの中に手を入れてくる。 俺はジタバタ藻掻きながら、ひたすらやめるように訴えるしかない。 そうするうちに恐怖心からガチで泣けてきた。 「無理だから……うぅっ」 「アッ……、コウヘイ」 ジョンは俺が泣いてるのに気づき、すっと手を引いて上からどいた。 俺は超みっともないって思ったが、怖くて涙が止まらなかった。 「ソーリー、ごめん、コウヘイの事好きダカラつい……、本当にゴメン」 ジョンは起き上がり、俺を抱き起こしてハグしてきた。 俺は感情が昂って、まるでか弱い女みたいに泣きじゃくった。 「うぅっ……俺……」 「もうしないから、ダカラごめんナサイ、ナカナイデ」 ジョンは謝りながら頭をヨシヨシしてくる。 俺……ホントマジでめちゃくちゃかっこ悪い。 「う、うん……、わかったから……」 居た堪れなくなって、ジョンの厚い胸板を押して体を離した。 「ホントに悪かった……、今夜は……モウ帰るね」 ジョンはもの凄く気落ちした表情で言うと、ゆっくりと立ち上がってとぼとぼと歩き出し、そのまま玄関から出て行った。 俺は引き止める気力なんかなく、茫然とその場に座り込んでいた。 猛烈にショックだった。 その夜は頭が混乱したまま眠りについた。 翌朝になって俺は仕事に行かなきゃならないので、バタバタと朝食を食って用意をしたが、昨夜の出来事が頭から離れない。 ただ、時間を置いた事で冷静さが戻ってきた。 ジョンが俺の事をそういう目で見ていたのかと思ったら、思い当たる節はあった。 ボディタッチが増えていた事だ。 ただでも……昨日キスされてあんな事をされたっていうのに、俺は不思議とジョンの事を気持ち悪いとは思わなかった。 多分、それはイケメンマジックだ。 俺はホモになりたいとか、男に興味があるわけじゃない。 なのに、嫌悪感を感じないのだ。 だけど、そんな事があって以来、ジョンがうちに遊びに来る事はなくなった。 たまに玄関先で出くわしても、ジョンは俺を見て悲しげな顔をすると、バツが悪そうにそそくさと部屋に入ってしまう。 きっと俺に嫌われたと思っているんだろう。 毎日来ていた陽気な外人がプッツリと来なくなり、俺はまたひとりぼっちの生活に戻った。 正直、物足りないし、ジョンと一緒に過ごすのは楽しかったので、また前みたいに一緒に過ごしたくなってきた。 けど、俺が誘ったら変に誤解されてまた襲われやしないか、それが怖くてなかなか声をかけられずにいた。 そんな中、わざと俺の帰宅時間に合わせてるのか? ジョンと玄関先で出くわす事が多くなった。 俺はその度にジョンの沈んだ表情を見る羽目になる。 ジョンはチラッとこっちを見て、綺麗なブルーアイですげー悲哀を込めた目つきで見つめてくる。 俺はなんか胸が痛くなった。 その痛みは回を重ねる毎に酷くなる。 なんか……俺の方が悪い事をしてるような気持ちになってきた。 それに、俺だってせっかく仲良くなったのに、こんな事でサヨナラするのは嫌だ。 そこで悩んだ末に、ちゃんと話をして、その上で付き合えればOKじゃね? と思った。 バイ・セクシャルだとしても、それを抜きにすれば単なる友達として付き合える。 そしてある晩、俺は勇気を出してジョンの部屋に行ってみた。 久しぶりだし、ドキドキしていたら、ドアが開いてジョンが顔を出した。 「コウヘイ……」 ジョンは驚いた顔をして俺を見る。 俺は久々に間近で見るジョンをやっぱりカッコイイと思ったが、それは置いといて……早速話をする事にした。 「あの……、俺、ジョンと話をするの、楽しいし、また遊びに来て欲しいんだ」 「エッ? ソレは本当デスカ?」 率直に言いたかった事を伝えたら、ジョンはパッと表情を明るく変えて、嬉しそうに聞いてきた。 しかし、ここからが肝心なとこだ。 「いや、えっと……、男同士で付き合うとかじゃなく、友達として付き合いたいって、そう思ったんだ、だから、それで良ければ……になるけど」 俺は誤解されないように言った。 「ワカリマシタ、OKデス、コウヘイはノーマルだから、ワタシハなにもシマセン」 ジョンはすんなりわかってくれた。 「うん、だったらさ、また遊びに来て」 「もちろんデス、コウヘイ、ありがとう」 話し合いは数分で終わり、俺とジョンはまた前みたいに付き合う事になった。 ………………………… 今夜もジョンが来ている。 もう面倒だから合鍵を作って渡した。 ジョンは相変わらずビールを飲みまくり、ボディタッチも多めだが、約束を守って一線はこえてこない。 俺はボディタッチやハグ位なら許容範囲だった。 ジョンはたまにふざけて頬にキスをしてきたが、それもフランスなんかじゃ挨拶でやるし、そのくらいは大目に見る事にした。 というか……。 俺は毎日ジョンと過ごすうちに、感化されてしまったのか? ジョンなら抱かれてもいいんじゃね? って、心の中で有り得ない事を考えるようになっていた。 でも、まだその勇気はない。 この先、どうなるかわからないが、いずれジョンは母国に帰ってしまう。 それを想像したらめちゃくちゃ凹む。 だったらいっそ……。 なんて思い、冗談で「俺、ジョンに惚れたかもしんねぇ」って言ってみたら、ジョンは満面の笑みで「だとしたらウレシイ、また襲いたくなるよ」と冗談で返してくる。 「あははっ、怖いからそれは無し」 俺はジョンが持ってきたビールを飲みながら笑って受け流したが、内心『ありかもしんねぇ……』とか、そんな事をこっそり思っていた。 ジョンは学生だから俺が帰宅する前に部屋に上がり、俺の帰りを待っていてくれる。 しかも食事まで作ってくれてたりする。 もちろんドイツ料理だ。 帰宅したらイケメンドイツ人が出迎えてくれて、普通なら食べる機会のないドイツ料理まで食べられる。 そんな事までされて、嬉しくない筈がない。 この先、ジョンとの関係がどうなるかわからないが、今度、まだ行った事のないジョンの部屋に遊びに行ってみようと思う。
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