第三章 四十九日

2/5
前へ
/17ページ
次へ
「まさか!」   ドキリとして、涙が引っ込む。玄関から聞こえた言葉は、なんとあの晩と同じだった。 「ただいま」  やはり、健太だった。 「……幻覚じゃなかったの」  彼の姿を見て涙があふれ出た。実際に再会すると、彼の違和感なんてどうでも良くなった。一方で健太は「夢……じゃないのか」とつぶやいた。 「真冬なんだな?」  彼はどこか切羽詰まった様子だった。 「ええ、私。真冬よ」  そう答えて、下駄箱の前で突っ立っている彼を見た。  短い黒髪はボサボサで、髭も剃られていない。目は落ち窪んでいる。紺のスーツはシワがついてヨレヨレだった。私は早く彼を抱きしめて、優しい言葉をたくさんかけてあげたくて……すぐに彼を迎え入れた。 「……そうか、生きているのか……」  しかし彼はそういうや否やその場にドサリと倒れ込んでしまった。 「健太!」  体中からサーッと血が引くのを感じる。彼の倒れる姿は、私にとってトラウマだ。とっさに脈を確かめた。 「良かった……。生きている」  額に手を伸ばす。熱もないみたいだった。 「健太、ねぇ……。起きてっ」  何度か彼の身体をゆすったが、ピクリとも動かない。 「まさか……。このまま死んじゃうんじゃ」  そんなの嫌だ! 私はすぐに救急車を呼び、玄関でそのまま待機した。やがて救急車の音がはっきりと聞こえてきたので、健太を廊下に寝かせて玄関の扉を勢いよく開けた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加