第三章 四十九日

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 その手には、刃渡り十五センチメートル程のナイフが握られていた! 「……いったいどういうつもりなの?」  それを聞いた彼はクツクツと嗤い、こう答えた。 「簡単な話さ。お前を始末する」  そう言いながら、彼は左手で私の遺影を指さした。 「君は、俺が殺したはずなんだ。犯人は俺だとバレてもいない」  彼は愛おしそうにナイフを見つめていたが、突然恐ろしい顔をして続けた。 「だが葬儀のあと自宅に戻ると、君は生きていた! 背筋が凍ったよ」  彼は興奮して息苦しくなったのか、ネクタイを少し緩めた。 「外に出ると元の世界に戻ったから、幻だったんじゃないかと思ったんだがね。四十九日の晩に奇妙な広告を見つけたから、君が現れた理由が分かった!」 「彼岸花の……」  後ずさりながらそう言うと、彼はギロリと私を睨みつけた。 「ああ、そうさ! あの糞みたいな、彼岸花のサイトだよ。一度だけ死んだ人間に会えるらしいな。この状況を察するに、別世界の人間に会うってことみたいだが」  彼はナイフを握りなおした。 「なっなんで、私に会いたいと思ったの……」  私は頭に浮かんだ疑問をそのまま口にした。 「もし会えたら、もう一度殺してやろうと思ったんだよ」 「なんで……?」  彼は怒りで顔を真っ赤にした。 「……この世界の真冬は、俺の同期や上司と浮気を繰り返していたんだ。俺は、それに耐え切れなかった」 「そんな……」  私は頭が真っ白になった。私は健太の同期や上司とは年に数回程度しか顔を合わせていないし、正直言って名前も覚えていない。 「この世界は、私の世界と違うのね……」 「その反応をみると、どうやらそうらしいな。フハハッ、この世界の真冬は俺の貯金を全て浮気に使い込みやがった!」  彼はナイフを私に向け激昂した。 「その顔……見てるだけで腸煮えくりかえる!」
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