第一話 奇妙な広告

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第一話 奇妙な広告

 あっという間の一日だった。  私は駅まで親戚を見送ると、どこにも寄らず家に帰った。疲れた手で玄関の扉を開け、乱暴に黒いヒールを脱ぎ捨て廊下にへたり込んだ。昨日から家中線香臭くて吐き気がする。飾られた菊の花々が、憎たらしいくらい非日常を誘う。  つい先日、夫が急死した。本当に突然だった。彼を担当していた主治医は少し前まで、完治は難しいけれども根気よく治療を続ければいずれ良くなると言っていた。しかし、現実は厳しかった。三日前に容態が急変し、そのまま帰らぬ人となった。 「会いたい……。健太」  そう、独り呟く。  彼はまだ三十歳だった。突然の出来事に私の気持ちは全く追いつかない。去年まで国内外問わず旅行に行ったり、二人でコツコツ貯めていたお金で理想の一軒家を購入したりと、お互い人生これからだと思っていたのに……。 「私はこれから先、どうやって生きていけばいいの……?」  教えて、健太——私は足元に置いた骨箱に縋りついた。  葬儀は一通り終わらせたものの、納骨はまだしていなかった。彼は神も仏も信じないという無神論者で、納骨する墓がなかったからだ。私は骨になった彼を、新築の一軒家に連れ帰ることになったのだ。
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