第一話 奇妙な広告

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「健太……。会いたい」  心が麻痺していた。私はフラフラと居間に入ると、テーブルの上に骨箱を置き、無意識に骨箱から骨壺を取り出して目の前に置いた。そしてもう一度声をかける。 「会いたい……」  臨終の瞬間が脳裏によぎる。虚空を見つめる彼の横顔が、目に焼き付いて離れない。 「健太……。私は妻として貴方を温かく見送りたかったのに、何も言えなかった」  健太の笑顔を思い出したいのに、どうしても最期の顔が浮かんでしまう。彼は病院のベッドの上で、今の私よりもずっと辛くて孤独だっただろう。想像すると、つらくて、悲しくて、やりきれない。ふと顔を上げると、戸棚に置いた彼の遺影が私を見ているような気がした。 「最期に温かい言葉をかけることができないなんて、私は妻失格よね」  そう遺影の彼に語りかけた。どうしても自分を責める気持ちを抑えることができない。罪悪感に苛まれながらソファに腰を掛け、現実から逃げるようにスマホでSNSアプリを開いた。動画や文章が滝のように流れてきたけれど、内容が頭に入ってこない。私はひたすら画面をスクロールするという作業に没頭していた。 「あれ……。これは何だろう」  私は奇怪な広告を見つけ、スクロールする動作をピタリと止めた。 〈もう一度、あの人に会いたいですか?〉  その文章の下には、真っ赤な彼岸花の写真が貼り付けてある。私は無意識にその血のような彼岸花をタップしてしまった。    画面が切り替わる。  しかし、真っ黒で反応がない。 「何かの悪戯かな?」  そう考えて画面を閉じようとしたとき、突然画面にあの真っ赤な彼岸花が現れた。そして次に〈あなたのことを教えてください〉と表示されたのだ! それを見て私はためらうことなく自分の名前と生年月日、性別を入力した。    今思えば、夫を突然亡くした極度の疲労とストレスで、判断力が鈍っていたのだろう。 〈次に、会いたい人について教えてください〉  頭の動きが鈍くなっている気がする。そう思いながらも、私は夫の名前と生年月日、性別を入力。それから〈あなたとの関係〉の欄で「夫」を選んだ。  なんだか、占いサイトみたいな形式だな……。ぼんやり考えながら、「登録」をタップすると、最後にこう表示された。
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