第二話 貴方は誰?

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 さっきの出来事をなるべく考えないようにして、台所に向かった。冷蔵庫を開けると、健太が仕事終わりによく飲んでいた「お楽しみのビール」がまだ六本パックまるまる残っていた。普段はあまりお酒を飲まないのだけれど、今晩は飲もうと思い一本取り出した。  私は居間のソファに腰を下ろし、冷えた缶ビールに口をつけた。生前健太は喉をごくごくと鳴らして「うまい!」と叫んでいたけれど、私自身お酒がそこまで得意でないのでチビチビ飲んだ。放心状態で三分の一まで飲んで、残りは健太の骨壺の前にお供えした。そのときだった。  玄関の鍵をカチャリと開ける音がした。 「え、だれなの……?」  一気に鳥肌が立った。まさか、強盗だろうか……。慌てて立ち上がったので、骨壺の前に置いていたビールの缶が勢いよく倒れ、ふわふわな白いラグに黄色い染みをつくっていく。しかしそんなこと、今は気にする余裕がない。私は居間の隅に立てかけてあった夫のゴルフクラブを手に持つと、恐る恐る玄関に近づいていった。
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