第二話 貴方は誰?

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「ただいま」  私は耳と目を同時に疑った。 「……嘘でしょ!?」  そこには亡くなったはずの、最愛の夫の姿があったからだ。  彼は私の姿を目にすると幽霊でも見たような顔をして、すぐさま叫び声を上げた。 「うっ嘘だろう……?」  彼は膝から崩れ落ちた。それから、何故生きているんだ! と取り乱した。 「それはこっちのセリフよ! いったいどうして……」  彼は黒いスーツを身に着けていた。顔色も良くない。目の下には大きなクマができている。いつもお洒落にセットしている髪もボサボサだ。 「俺は今日……」  彼は一呼吸おいて何かを言おうとしたけれども、なぜか黙ってしまった。 「いや、少し休んだ後にしよう。今日は疲れたんだ」  着替えてもいいか? そういいながら、私の制する声も聞かずにスウェットを手に取った。そしてベルトに手をかけると、彼は何か気づいた仕草をした。 「……車に財布を置いてきてしまった」  そう言うと、そそくさと外に出ていった。 そしてそれっきり、健太は戻ってこなかった。
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