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第2話 家族
スバルとタケルは、並んで魔物の森に入り、周りを警戒しながら歩いていく。
「いてぇ」
タケルが石につまずきバッグの中身が、地面に転がる。
(大丈夫?)
「平気だ」
ショルダーバッグを肩から外して、転がった中身を拾う為に、フタを開けようとした瞬間、目の前を何かが横切る。
「あっ、猿の魔物にバッグを盗まれた」
タケルの手が、木の上を指差している。
(ただの猿みたいだよ)
「普通の動物もいるのか。そんなのどうでもいいんだよ。俺のバッグが┅┅」
タケルはうつむき肩を落とす。
(荷物は出した後みたいだけど、バッグの中に貴重品とか入ってた?)
タケルは地面に置いたバッグの中身を確認した。
「ぶちまけたから中身は全部ある」
(僕のリュックに入れていく?)
一緒に先に進むなら、他に選択肢がない。
「お前、いい奴だな。俺も順番に持つから頼めるか」
(これ荷物がいっぱい入るんだよ。重くならないし)
ボロボロのハギツギだらけのリュックは父親の形見。
スバルはリュックを肩から下ろそうとする。
「待て」
(なに?)
「あの猿、リュックを下ろすのを待ってやがる」
(何で中身じゃなくてバッグを狙うの?)
「バッグが好きか、もしくはバッグを盗んだ時にあわてふためく旅人の様子を見るのが楽しいんだろ」
(悪趣味だな)
ガリガリの手が足元に転がっている石ころを拾って、木の上にいる猿に投げつける。
だが、まったく届かない。
「カキャキャ」
猿が後ろを向いて尻を叩いて見せている。
(あいつ)
スバルがまた石を拾おうとするとタケルに止められる。
「止めとけ。お前はリュックを背負ったまま座ってくれ」
(うん)
リュックのフタを開けて、落とした中身を拾って詰め込んでいく。
「これマジックバッグじゃないか?しかも見たことあるぞ」
(マジックバッグ?)
「ああ、物がたくさん入るって言ってただろ。バッグの中が別次元と繋がっていて、たくさん物が入るんだ」
(父さん、何でそんなの持ってたんだろ?)
「親父さんて、ノボルおじさん?」
(何で父さんの名前を知ってるの?)
「写真でしか見たことないけど、話しはよく聞かされたんだ。俺の親父の弟がノボルおじさんで、同じマジックバッグを親父も持ってるんだぜ」
(タケルは僕の従兄弟ってこと?)
「そうだ。俺たちは家族だったんだ」
(僕、もうこの世に一人きりだと思ってた)
「もしかして、おじさんたち死んだのか?」
(うん、魔物から僕を守って)
「親父が、悲しむだろうな。でもお前を連れて帰ったらきっと喜ぶぞ」
(一緒に?)
「家族なんだから、当たり前だろ。お前はこれから俺の弟だからな」
(うん、うん)
「泣くな」
悲しくもないのに、涙が止まらなかった。
「さあ、行こうぜ」
(うん┅┅あっかんべ~)
泣き止んだばかりの顔で、後ろを振り返って、べ~と猿に舌を出す。
「ムキィ」
(いてぇ)
猿はバカにされたと分かるのか、手当たり次第に何かを投げつけてくる。
「ばか、挑発するな」
(いて)
ス青い頭に、赤い果物が当たって地面に落ちた。
「猿が投げ終わるまで、とにかく避けるんだ」
ホイ、ヒョイ、アラホイ
不格好なダンスでも踊るように、2人は猿から距離を取って投げつける物を避けていく。
「ムキィ」
「そろそろ終わったみたいだな。いてぇっ、ぶつけられた」
タケルは大声で痛がっている。
(届いてないよね?)
「バカ、猿にこれ以上恨まれないように、当たったフリをしてるんだ」
(そう言えば、俺も腕が痛い~かも。猿さんにやられた~)
スバルはヨロヨロと倒れるフリをした。口パクでも大根役者だ。
「お前はこれ以上、何もするな。いてぇ、いてぇ、俺たちが悪かった。もう許してくれ」
「キャキャキャ」
猿は満足して他の木に跳び移りながら姿をくらませた。
「よし、落ちてる物を拾え」
(これ何?)
赤や緑の丸い果物?
「多分、食えるだろ。マジックバッグは、食料が腐らないんだ。入れておこう」
(へぇ)
自分のマジックバッグの性能に驚きながら、肩から下ろそうとする。
「だから下ろすなって」
(あ)
「まずは1ヵ所に果物を集めて、俺がリュックにつめていくよ」
(わかった『兄ちゃん』)
スバルは、口パクせずに心の中で兄ちゃんと呼んでみる。
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