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第3話 キャンディ
しばらく森の中を歩いていくと、目の前にピンク色の綺麗な丸い魔物が現れる。
(あのピンクの、何だと思う?)
「ん?ピンク?俺には青に見えるけど、あっ、木の陰に隠れたぞ」
(捕まえよう)
2人は、丸い魔物の後ろに回り込んで捕まえようとする。
「よし、今だ」
(待って)
スバルがタケルを引き止める。
「何だよ」
その時、ピンクの魔物が隠れる前にいた場所を大蜥蜴が歩いていく。
「っ」
2人はお互いの口を押さえて、叫び声を打ち消した。もちろんスバルは口を押さえる必要はなかった。
大蜥蜴が去って行くのを見送るように、ピンクの魔物が元いた場所にピョーンと飛び出す。
気配を察した大蜥蜴が、ゆっくりと後ろを振り返る。
(ヤバい)
とっさに丸い魔物を抱きかかえて、2人は一目散に反対方向に逃げ出した。
(はあ、はあ、この辺までくれば大丈夫かな)
「はあ、はあ、ああ、多分な。お前、魔物を抱えて来たのか?」
(こんなに小さな子が、大蜥蜴に見つかったら食べられちゃうよ)
スバルはピンクの魔物を覗き込む。
「ありあと」
「うわぁ、魔物がしゃべった」
タケルは素早く後ろへ飛び退ける。
(ははは、でも、お礼言ってる、る、みたいだし)
ガタガタ震えながら、魔物を持つ手を前に付き出す。
「ないない」
(危険じゃないって言ってるの?)
「あい」
(僕の言ってることが分かるみたい)
思わず、ピンクの魔物を抱きしめる。
「それ考えてること読まれてるんじゃねえの?」
(そう言えば、そうかも。でもすごく可愛いし)
口パクなのに言ってることが分かるなんて、それ以外に考えられない。
「確かに可愛いけど、魔物だし」
「ないない」
「何て言ってるんだ?」
(危険じゃないって言ってるみたいだよ)
「ふ~ん┅┅いい子だな」
タケルの手が、そっとピンクの魔物の頭を撫でると、プルンと震える。
「いこ、いこ」
「もしかして、自分はいい子って言ってるのか?」
(そうかもね)
魔物は、頭を撫でられて「いい子」と言われたので、「いい子」が頭を撫でることだと思った。
「いい子、いい子」
プルン、プルンと魔物が震える。
(この子、ピンク色だけど、スライムじゃない?)
「確かに似てるけど、ピンクのスライムなんて聞いたことないぞ」
(目の前にいるじゃない)
「それもそうだな」
(この子、置いていったら、さっきの魔物に食べられちゃうよ)
「お前、俺たちと一緒に来るか?」
「あい」
「返事したぞ。賢いな」
2人は初めて会ったピンクの魔物に夢中になった。
「走ってお腹も空いたし、飯にするか┅┅こいつにも」
(そうだね。果物もあるし。でも、こいつは可哀想だよ。名前をつけてあげよう)
「魔物に名前を?」
魔物に名前をつける奴なんて、タケルは見たことも聞いたこともない。
(う~ん、何がいいかな?)
「やっぱり、形や色から決めるのがいいんじゃないか?」
(ピンクで丸い物か┅┅豚しか思い付かないな)
「おい、魔物が緑色になったぞ。多分、豚は嫌だんだよ」
(豚は名前じゃないよ)
すると魔物はピンク色に戻った。
「こいつ、面白いな。ピンクの丸い物か」
その後も、ボール▪お皿▪時計▪帽子とピンクの丸い物をあげていったが、その度に魔物は緑色になってしまう。
(もう、思い付かないよ)
「俺マケドニヴァで買った旨い物があるんだ。1個ずつな」
ポケットから包みを出して、それを広げて見せる。
そこにはオレンジ色とレモン色と桃色の飴が包まれていた。
「ほら、1つずつな」
飴を1つもらって、すぐに口にほうり込む。
(甘くて美味しい┅┅ピンク色の丸い物)
スバルは口の中の甘い物を味わいながらひらめく。
(キャンディだ)
飴が気に入ったのかキャンディと言う名前が気に入ったのか、ピンク色のままでピョーン、ピョーンと飛びはねた。
「キャンディで決まりだな」
(喜んでるもんね)
2人とも飴を食べながら、片方の頬をポコリとふくらませながら、話している。
「さあ、名前も決まったし食事するぞ」
スバルの背中のリュックの中から赤い果実を取り出して、1口かじる。
「うまい」
(キャンディにもあげよう)
「ないない」
(果物は食べないの?)
「魔物だから、俺たちと同じ物は、食わないのか?まさか、肉を食うのか?」
(でも、飴は食べたじゃない)
「それもそうだな。腹が減ってないのかもな」
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