第4話 願い

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第4話 願い

(キャンディが青くなってるよ) ピンクの魔物のキャンディが青くなるのは、近くに他の魔物がいる時。 「岩陰に隠れよう」 レッドベアだ。 2人は震える体を押さえつけて息を止める。 あんなに大きなレッドベアの魔物に出くわしたら、命がいくつあっても足りやしない。 色が変わる能力のお陰で、魔物から隠れて無事に旅が続けられていたが、キャンディは何も食べようとしない。 「なあ、こいつ昨日から何も食べてないぞ」 (やっぱり、食べ物が決まってるみたいだね) 「好きな食べ物がある場所に行ってやるにしても、まずは何か食わせないと。そうだ、残りの飴を食事の度に1個やれば体力が保つんじゃないか?」 ポケットの包みから飴を1つ取り出して、キャンディに食べさせる。 「おいしの」 「そうか、うまいか。なあ、お前のいつも食べている物がある場所に、俺たちを案内してくれるか?」 「あい」 素直に応じたキャンディに道案内させて3時間程すると、目の前に湖が現れた。 「湖にたどりつけねぇから、通りすぎたかと思ってたのに、キャンディに案内されるとはな」 (まずはキャンディの食べ物を確保してあげなきゃ) 「そうだな。あっ」 その時、手にポツンと雨が当たった。 「雨だぞ、湖に雨が降った」 (それがどうしたの?) 「おい、俺たちが魔物の森に入った目的を忘れたのか」 (雨上がりの虹を探して) 「やったぞー」 (やったー) ピョーン、ピョーン キャンディも2人が嬉しそうなので一緒に飛びはねた。 「はあ、びしょ濡れだな」 (うん、でも、雨はもう上がったみたい) 「見ろよ、湖の上に虹がかかってるぞ」 タケルは虹を指差した。 (虹から雨が降ってるみたいだ┅┅けど全部、湖の中に落ちてるよ) 「近くまで行ってみるぞ」 (うん) 2人は湖を回って奥にかかる虹に向かった。 遠くからでは分からなかったが、湖の上にかかる虹から、雫型の雨がキラキラと七色に光って湖に落ちていく。 2人は湖の底を覗き込む。 (湖の底でキラキラ光ってるのが、虹の雨じゃないかな?) 「多分、そうだな」 タケルがうなずく。 (でも、どうやって手にいれようか?) 「あめほしの?」 (うん、あの湖の底の七色の雨が欲しいんだよ) スバルは、湖を覗き込むキャンディの頭を優しく撫でる。 ボチャン 次の瞬間、キャンディが湖に飛び込んだ。 「お前、まさかキャンディを突き落としたのか?」 (僕、そんなことしないよ) 「おい、あれ」 褐色の指が湖の中に浮かぶキャンディを指差している。 ピンクの魔物は湖の水をどんどん飲み込んでいく。 (僕が、湖の中の七色の雨が欲しいって言ったから) 湖に落ちた虹の雨を拾うために、湖の水を全て飲み込んで、ピンク色が巨大化していく。 (キャンディのお腹の中を見て) キャンディの中にキラキラ光る物を見つける。 (キャンディ、お腹の中の七色の雨だけ、吐き出せる?) 「ないない」 (無理なんだね。じゃあ水を全部吐き出して) 「あい」 キャンディがキラキラ光っている物ごと湖に水を吐き出す。 キャンディは湖面にプカプカ浮かんだまま、2人がいる岸辺に戻ってきた。 「ごめんなの」 キャンディはシュンとしている。 (いいんだよ) スバルはキャンディの頭を撫でた。 「ああ、キャンディはよく頑張ったな。あとは俺が湖に潜る」 (無理だよ) スバルは慌ててタケルを引き止める。 「俺さ、漁師の息子だから泳ぎは得意なんだ」 (おじさん、漁師なの) 「ああ、だから任せとけ」 (待って) タケルが飛び込もうとした瞬間、腕を引っ張られる。 「大丈夫だって言ってるだろ」 (そうじゃなくて、湖の底で虹の雨を見つけたら) 「何だよ、俺が一人占めしないか心配なのか?」 (だからそうじゃなくて、入れ物は持ってるの?) 「あ、持ってない」 (良かったら、これを使って) リュックの中身を全て地面におとして、空になったリュックを手渡す。 「あぶね~虹の雨を見つけても、入れ物がなきゃ終わりじゃんか」 再び、水に飛び込む体勢をとる。 飛び込む瞬間「ありがとな」確かにそう聞こえた。 タケルは、どんどん湖の底に潜っていく。 湖の水深は、深い所で20メーターほどだろうか。 プクプクプク 湖面に浮かぶ泡を見て、スバルはタケルが心配になってくる。 スバルは村の近くの川で泳いだことはあるが、水の中に潜ったことはない。 (タケル、早く出てきてよ) スバルは何度もタケルの名前を、声に出せずに呼びかける。 1分、2分、もう3分経ったんじゃないか。人間ってそんなに水に潜れるものなのか? 「兄ちゃん」 スバルは悲痛な声をだす。 「お前、今、俺を呼んだのか?」 (何で湖じゃなくて後ろから来るの?) 「おい、たった今、喋れたじゃないか。もう一度話してみろよ」 「兄ちゃん」 声を出したスバルが一番驚いて目を見開いている。 「スバルが喋ったぞ~」 「そっちは無事なの?」 「ああ、七色の雨を拾い集めてたら、岸までたどりついちまってさ」 「虹の雨は?」 スバルは少し不安そうに喉を手で押さえている。 「持ってきたぜ」 リュックを逆さまにして上下に振ると、バラバラバラと七色に光る雨が落ちてきた。 「こんなにたくさん」 「それで、どうするんだ?」 「え?」 「虹の雨をたくさん集めると、願いが叶うんだろ?どうやるんだ?」 「願いだから、お願いするとか?」 「知らないのかよ」 タケルは自分も知らないくせに、スバルが知らないことにガッカリしている。 「じゃあ、お前から願いごとしてみろよ」 タケルはスバルの願いから叶えてくれる気らしい。 「僕はもういいんだ」 「え?」 「この旅で願いは叶っちゃったから」 スバルは家族が欲しいと願うつもりでいた。 それが叶わぬ願いだと分かっていたけれど、虹の雨を探さずにはいられなかった。それほど寂しかったのだ。 「もしかして喋れるようになったのって?」 「ううん、違うと思う。僕の願いは家族が出来ること。それに魔物の友達まで出来た」 「そうだな」 「あい」 「兄ちゃんの願いを言ってよ」 スバルは照れくさそうに、タケルを兄ちゃんと呼んだ。 「いや、俺も叶っちまったみたいだ」 「?」 「俺を置いて逃げない本物の仲間が欲しかった。願いはもう叶ってるから、何も起きない」 「そうだね」 僕は、兄ちゃんの弟で、冒険の仲間だ。 「そうだ、キャンディも願いごとがあるならいってみて?」 「おいしの」 キャンディは丸い体からビョーンと2本の腕を出して、虹の雨をワシッと掴むとパクン▪パクン▪パクンと次々に食べていく。 「おいしの」 「待て、待て、飴を買ってやるから食べるな~」  あなたも願いがあるなら探してみて。雨上がりの空に虹が掛かったら、虹から降る虹色の雨を集めてみて。 そうしたら、きっと願いが叶うはず。
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