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※※※
次の日の朝。
私は服が乱れていないのを確認しながら自分のアパートに戻る。
「ただいま」
返事は返ってこないのに、ついそう言ってしまう。
「おかえり」
「え?」
思いがけない声に、私はビクッとした。
「おかえり、どうしたの。朝帰りなんて」
「……え?まだ出張のはずじゃ……」
私は、目の前に立っている夫を見て、完全に動揺していた。
夫は出張で、帰ってくるのは明日のはずだ。
「どうしたの?朝帰りなんて」
同じセリフを繰り返す夫の目は笑っていない。
これは完全にバレている。
謝るしかない。
「ごめんなさ……!!!」
私は謝罪の言葉を最後まで言う事ができなかった。
「……な、……なん、で……」
「僕はね、『リアルにざまぁな展開なんて起こせないの。だから、あと一回浮気したら殺そうと思って』たんだよ。
君を殺せば事件になる。僕は動機として君とあの男の事を警察に話すよ。そしたら、あの男だってただじゃすまないだろうね。普通に暴露するんじゃ大したダメージは無さそうだけど、人一人死ぬような原因を作ったとなれば世間からの目は厳しくなるだろうね」
私は自分の腹に突き刺さったナイフと、冷たい目で私を見下ろす夫を交互に見つめながら、昨夜課長に自分が言った言葉を思い返していた。
『こういうのはフェイク混ぜたりしてるんですよ……』
END
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