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結
「あ~せいせいした!あの『野菜あんかけ』が逮捕されて、もうあたしをいやらしい目つきで眺めるヤツもいなくなるからね!」
この時のあたしの顔つきは、大層晴れやかなものだっただろう。何しろ、名前を口にするのも憚る「野菜あんかけ」が、今後はいなくなるのだから。アイツは毎晩夕食に野菜あんかけばっかりを注文するので、あたしは密かにそう呼んでいた。
あたしは快活CLUBのトイレで産み落とされ、快活CLUBの子ども食堂のごはんを食べて育ち、快活CLUBの店員として働いている。そして老後は生活保護を受給しながら快活CLUBの個室で一日中動画を眺めて生活し、最期は快活CLUBのトイレで力んでいる裡に脳溢血で死亡する。つまり、快活CLUBのトイレで生まれて快活CLUBのトイレで死ぬ。
「勝ち組」が120歳で老衰により幸せに人生の幕引きをするのに対して、社会の底辺で暮らす自分にはその半分の60代そこそこでそんな死に方をするしかない。それならせめて、自分もひとつくらい良い目に遭ってもいいじゃん!…と、思っていた矢先に「野菜あんかけ」の住んでいる個室に警察が踏み込んでしょっ引かれたのだから、もう愉快痛快。
「さ~あ、今日は自分の人生で最高にいいことがあったから、そのお祝いに早速三日間の有給休暇を申請しておこうか?それで、賄いにストロングゼロを開けて、一人で乾杯することとしよう!」
アイツにはそんな意図は無いだろうけど、あたしの人生の新しい門出を祝するように、あの不快な「野菜あんかけ」が快活CLUBの門から強制的に追い出されて懲役刑を受けるのであった。
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