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プロローグ
2184年――
この時代、21世紀初頭から水面下で浸透していた「優生思想」は、その結果を弾き出そうとしていた。
即ち、知力体力共に秀でる・資産のあるイケメンと美女ばかりが子作りにありつけて、そのイケメンと美女の子どもが同じく「美女とイケメン」と結婚して、そして「知力体力共に秀でる・資産のあるイケメンと美女」をどんどん再生産するのであった。
その一方で、貧乏人や知能の低い者や体力のない者・チビやデブやハゲや不細工やブスは子どもを儲けるばかりか、本来ならばあってはならない「人格を有した“人間”として生きる権利の剥奪」さえ横行し、そして彼ら彼女らは子孫を残すことなく淘汰されていった。
しかし、そんな社会でも「勝ち組」と「負け組」は必ず出現する。
「勝ち組」の子どもたちは産まれた時から親の愛情に育まれ、人格を陶冶し、有り余る資産を惜しげもなく投資され、その結果として「大企業ホワイトカラー」「国家機関に勤務する公務員」「芸術家等のキラキラした仕事」に就く。
他方で「負け組」の子どもたちは、外国人労働者や精神知的身体発達障碍者と共に「農林水産業」「工員」「建設業」「倉庫の検品作業」「ネットカフェの店員」etc.のキツく、自由の利かない、そして低賃金で誰もやりたがらない労働を日々こなしているのであった。
「勝ち組」と「負け組」では、認識する世界が全く異なる。否、使用する言語からして異なっている。
「勝ち組」がカタカナの混じった言語で、世界中の同じく「勝ち組」と交流しているのに対し、「負け組」の日常は仕事場と自身の利用するネットカフェ・もしくは親の家のみがほぼ「世界の全て」であり、海外旅行など以て外、日々の重労働で稼いだ雀の涙ほどのクレジット・ポイント(信用ポイント・略称:CP)を、パチンコやソシャゲに費やすことが、精一杯の贅沢なのであった。
また、本来ならば万人に平等に開かれているはずのSNSでさえ、この時代では「勝ち組」「負け組」ではユーザーが異なり、「勝ち組」が会員制課金SNSで世界中の人々とビジネスの遣り取りを行うに対し、「負け組」は無料SNSで仕事の愚痴をこぼし合い、不平不満をぶち撒けることに使用している。
これは、そんな時代に生まれたある青年の物語である。
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