17話

1/1
前へ
/23ページ
次へ

17話

どれだけ暑い日差しを浴びても、全く溶けることのない氷。 呪いのようなそれは、コリンズ家を永遠の中に閉じこめて、異様な輝きを放ち続けている。 帝都民は、この十五年ですっかり見慣れただろうが、オリバーは違う。 住み慣れた家が氷漬けになっているのは、目を背けたくなるほど悲惨な光景だ。 失った人生。奪われたアーノルドとの時間。 そして、凍りついている自分自身。 異常な家と共に、それらが生々しく眼前に突きつけられる。 「どうせ逃げられねぇんだ。余計なことすんじゃねぇぞっ」 盗賊の一人に腕を強く引っ張られて、オリバーは我が家から強引に視線をはがされた。 結局、どうすればいいか頭を悩ませただけで、盗賊の隠れ家では何もできなかった。 昼前に足の拘束だけ解かれると、転移魔法に放り込まれて。 それからは一瞬だ。 心の準備をする間もなく、十数人の盗賊と共に、凍ったコリンズ家の前庭に立っていた。 ――もうすぐ、正午だ……。 オリバーは、縛られている手を静かに見下ろした。 正午の鐘が鳴れば、ここにアーノルドが来てしまう。 土人形の兄を助けるために……。 「センセーが本当に共鳴を完全解明してんのか見ものだなぁ~」 側に立っている(かしら)が、楽しそうな声音で言う。 「もし、共鳴が解明されてたら、歴史的にとんでもねぇことだよな」 「ありえねぇっすよ。殺されたくねぇから、テキトーなこと言ってんじゃないっすか?」 「けど、大魔導師を()っちまうのは、うちの魔法使い総出でもキツいからなぁ。氷を消してくれたら、オレらは大喜びだ」 (かしら)に続いて、手下たちが好き勝手に話している。 やはり、大魔導師が共鳴を完全解明したという話は、盗賊側も疑問視しているようだ。 今まで誰もできなかったことを、たった八年で成し遂げたというアーノルド。 信じられないのも当然だ。 助手として側にいたオリバーでさえも、真偽をはかりかねているのだから。 しかし、アーノルドのことだ。どちらにしろ、何か考えがあるに違いない。 盗賊の言いなりになる弟ではないとは分かっている。 ――分かってるけど……。 このまま、アーノルドが来なければいいのにと思ってしまう。 本当に完全解明をしているのならば、尚更、脅迫に応じる必要はない。 土人形の兄は無視しておいて、盗賊が去った後に、ゆっくりと共鳴を解けばいいのだ。 オリバーは再び視線を上げて、凍りついた我が家を見つめる。 薄曇りの空の下。 氷の館は、これから起こることを静かに待っているように見えた。 「計画が失敗した時にはイラついたが、これはこれで楽しいもんだな。お前も助手として心が躍るだろ? センセーがしょうもない嘘つき野郎だったら、一緒に笑ってやろうぜ」 「…………」 心底愉快そうなのが腹立たしくて、オリバーは無言で顔を背ける。 助手の怒りが浮かんだ顔を見て、(かしら)はおかしそうに笑った。 「そんなに怒んなよ。ほら、正午の鐘だ」 ご機嫌な声と共に、鐘の音が帝都中に鳴り響く。 とうとう、来てしまった。 約束の時間だ。 オリバーは、爪が白くなるほど、ぐっと手を握りこんだ。 ――アーニー……お願い、お願い……来ないで――…… 兄の願いも空しく、門扉の向こうに閃光が走る。 そして、現れた魔法陣の上には、大魔導師アーノルド・コリンズ。 見たくなかった弟の姿に、オリバーの心は激しく締めつけられた。 「大魔導師様のお出ましだ! 丁重にお通ししろよ~」 (かしら)が、冗談交じりの口調で声を張る。 手下の魔法使いが、コリンズ家を覆う結界を一瞬だけ緩めると、門扉を開けてアーノルドが入ってきた。 足早に庭を突き進む弟は、まっすぐ兄を見つめてくる。 その切実な視線に、心が一層苦しくなった。 「コリンズ家へようこそ。時間厳守で嬉しいねぇ~」 相対する位置まで来た弟に、(かしら)がふざけた挨拶をする。 思いきり顔をしかめたアーノルドは、盗賊たちを睨みながら口を開いた。 「約束通り、助手には危害を加えてないだろうな」 「俺たちは善良な盗人(ぬすっと)なんでね。助手殿は縛っただけで何もしてねぇよ」 オリバーの縛られた手首を見て、アーノルドは不愉快そうに眉根を寄せた。 「センセーこそ、ちゃんと約束は守れよ。共鳴は完全解明したんだろ? 嘘だったら、二人とも命はねぇからな」 「共鳴はすぐに解ける。ただし、助手の安全確保が前提だ」 「信用されてねぇなぁ~」 (かしら)は大げさに笑うと、オリバーの背中を乱暴に押した。 「庭の真ん中辺りまで行け」 言われた通りの場所まで歩くと、体が水の膜に包み込まれる。 兄の身を守るために、弟が結界を張ってくれたのだ。 「今度はセンセーの番だ。早く氷を消してもらおうか」 アーノルドは無言で我が家に近づくと、そっと壁に手をあてる。 そして、軽く深呼吸をしてから、呪文の詠唱(えいしょう)をはじめた。 皆が固唾を飲んで見守る中、弟の低い声が庭に広がっていく。 ――アーニー……。今から、氷が消えるの……? 共鳴が解明できたって、本当に――? 期待と不安で、心がざわつく。 緊張で体が震えて、今にもへたり込みそうだ。 必死で両の足に力を入れてアーノルドを見つめていると、長い呪文が終わりを迎えた。 その刹那。 激しく光を放ちながら、全ての氷がきれいに消え失せていった。 「……こ、氷が……」 オリバーは、我が家を見上げて呆然とした。 十五年間も凍りついていたのが嘘のように。 三人の人間を飲み込んで、時を止めていたのが夢のように。 目前の館は、エリオットが見慣れたコリンズ家そのもの。 いつもの穏やかな佇まいだった。 「おいっ! 本気でやりやがったぞ!!」 「嘘だろ!?」 「凍った二人はどこだっ!?」 魔力共鳴が解かれた家の前で、男たちが驚愕に沸く。 それと同時に、オリバーの体が宙に浮いた。 「わっ……っ」 うろたえる間もなく、駆けてくるアーノルドの方へ引き寄せられると、すぐに胸の中へ抱え込まれた。 「兄さん……兄さんっ……」 強く激しく―― 痛いほど抱きしめられる。 「アーニー……っ」 オリバーは目頭を熱くしながら、広い胸に頬を寄せた。 手を縛られているのが、もどかしい。 アーノルドの体を、めいっぱい抱き返したいのに……! 「ひどいことをされなかった?」 「縛られて眠らされてただけだよ。心配かけてごめんね」 顔を上げると、漆黒の目が切なげに細められる。 「こんなにキツく縛られて……。痛いよね。すぐに(ほど)くよ」 手首を縛っている縄を、弟が急いで(ほど)いてくれる。 「ありがとう……。アーニー……アーニーっ」 オリバーは自由になった手で、アーノルドの体を思いきり抱きしめた。 すぐに強く抱き返されて、頬に喜びの涙が伝う。 ずっと、こうして抱きしめたかった。 もう苦しまなくていい、兄はここにいるからと、全力で抱擁(ほうよう)して、弟を孤独の中からすくい上げたかった。 「兄さんが無事でよかった……」 十五年前と変わらない柔らかな眼差しと口調で、優しく涙を拭われる。 弟の顔をはっきりと見たくて、懸命に泣き止もうとしていると、男の高揚した声が鼓膜を震わせた。 はっと意識を切り替えて顔を向けた玄関先には、十数人の盗賊の()れ。 扉の鍵をこじ開けると、屈強な男たちが再び沸いていた。 本来なら、アーノルドの命を奪ったとしても、共鳴が解けるとは限らなかった。 それが、何の苦労もなく館に入れるようになったのだ。 騒いで喜ぶのも当然といえる。 「さすが、大魔導師様はすげぇな~!!」 特に喜びをあらわにしている(かしら)が、こちらに満面の笑みを向けてくる。 「これで、莫大な魔力は俺たちのもんだっ。お二人さんには、事がすんなり運んだ礼に、居心地のいい(おり)を用意してやるから、しばらく大人しくしてろよ」 そう言って、手下の一人に合図をした。 指名された男は、こちらに向かって呪文をとなえる。 すぐに薄い皮膜のようなものに体を包まれ、兄弟そろって結界に閉じ込められてしまった。 「大魔導師の魔力なら余裕で壊せるが、破壊の圧力に耐えられず、助手はあの世行きになる。私たちがここを立ち去るまで、動かないほうが身のためだ」 手下の言葉に、(かしら)は満足そうに頷く。 そして、開け放たれた扉の奥へと視線を向けた。 「よしっ。お前ら、魔法陣を探すぞっ。探し方を間違えるなよ。少しの魔力反応も見落とすな!」 男たちは威勢よく返事をすると、我先にと家の中へ入っていく。 あっという間に前庭には誰もいなくなり、兄弟だけが残された。 共鳴さえ解けてしまえば、自分たちは用済みだ。 命を奪うまでもないのだろう。 「兄さん。痛くない?」 縛られて赤くなった手首を、アーノルドが優しく撫でてくる。 「うん。もう痛くないよ」 「ごめんね……俺のせいで……」 「アーニーのせいじゃないよ。それに、今の僕は、何をされたって大事にはならないしね」 ……オリバー・イートンは動く土塊(つちくれ)で、命を奪われようのない人質だ。 「アーニーは……僕が土人形だって、もう知ってるよね?」 「うん……」 「なら、脅迫なんて無視してよかったんだよ? 共鳴を解明してたのなら、尚更――」 「何で、そんなこと言うの……?」 一心に兄を見つめる弟の表情が、悲しげに曇る。 「土人形だって、恐怖も痛みもあるよね。俺に、兄さんを見殺しにしろって言うの?」 「それは……」 「そんな残酷なこと、できるわけないっ」 アーノルドは、再び兄を抱きしめる。 「俺は、兄さんが苦しい思いをするのは嫌だ……っ」 「アーニー……」 「絶対に嫌なんだっ」 想いの深さを示すように、ぎゅっと強くなる腕の力。 「……僕は、アーニーの優しさに救われてばかりだね。十五年前から、ずっと……」 オリバーも負けじと抱き返して、アーノルドの愛情をしっかりと噛みしめた。 「氷が消えた時は、ものすごく驚いたよ。完全解明できてたんだね……」 「兄さんが助手になってくれてから、ぐっと研究が進んでたんだ。って言っても、呪文が完成したのは今朝だけどね」 「……そんなぎりぎりに?」 直前での完成に、オリバーは目を丸くした。 きっと、兄を助けるために、自分を追い込んで仕上げたのだ。 「本当にごめんね……。完全解明はアーニーの努力の結晶なのに、盗賊のために解くことになって……」 「謝らないで。どんな形だろうと、共鳴を解くのが俺の目的だったから」 アーノルドは優しく笑むと、我が家の方に視線を向けた。 「兄さん。実はね、共鳴は完全に解いてないんだ」 「え? そうなの?」 「うん。呪文で操作して、時は止めたままにしてる」 「あ……。だから、僕はまだ動いてるんだね」 エリオットの時が流れていれば、土人形であるオリバーの自我はなくなるはず。 「さすがに、盗賊の前で兄さんが土に戻るのはまずいと思って。もうすぐ、時止めの魔法も解けて、兄さんの意識は本体に戻るよ。そうしたら、俺は結界を壊して外に出るね」 アーノルドならば余裕で壊せると、手下の男が言っていた。 懸念点であるオリバーがいなくなれば、造作もないことだろう。 「兄さんは、体に戻ったら、すぐにここへ――」 アーノルドの語尾が闇に溶けて、急に周囲が暗転した。 ――こ、これは――…… 一瞬だけ気が遠くなり、はっと意識が戻ると、目の前には中途半端に開いた窓。 九歳のアーノルドを放り投げた勢いが余って、エリオットは盛大に転びそうになった。 ――僕の体に戻った――!! 土人形ではない、生身の体。 あまり実感はないが、十五年の時を経て動きはじめた自分の体。 エリオットは、転びそうになった体勢を慌てて立て直した。 そして、周囲を見回していると、目の前で水の膜がぱちんと弾けた。 さすがは大魔導師。エリオットの体にも、結界を張っていてくれたようだ。 ――騒いでた男たちは、誰もいないな……。 十数人の盗賊は、ショーンの魔力探しに必死なようで、玄関ホールは静かだ。 意外なことに、一緒に凍っていた二人の男は、床に倒れ伏していた。 共鳴が起こったと同時に失神していたのか。全てが解けても、意識を取り戻していない様子だ。 「アーニーっ!」 エリオットは、弟を呼びながら一目散に駆け出した。 玄関前にある数段の階段を飛び越えて、結界の中にいるアーノルドの傍に走っていく。 「元に戻ったよ!!」 「兄さんっ。体に違和感はない?」 「うん。大丈夫」 アーノルドは、安堵の表情を浮かべると、両手で結界に触れた。 その足元には、オリバーだったであろう土の山。 つい先ほどまで、この土塊(つちくれ)が自分の体だったなんて、不思議な気持ちだ。 「俺もすぐに出るから、少し下がっていて」 エリオットを安全な場所にまで下がらせると、アーノルドは魔法で結界に圧力をかけはじめた。 すると、皮膜が震えて、細かくヒビ割れていく。 そのヒビが隅々にまで行き渡ると、結界が跡形もなく消滅した。 「兄さんっ……兄さんっ……」 結界を壊したアーノルドが、エリオットを勢いよく抱きしめた。 「兄さん……十五年ぶりの兄さんだ……っ」 「アーニー……」 きれいな金色の髪に頬ずりをしながら、弟は震える声で兄を何度も呼ぶ。 「アーニーのおかげだよ。十五年間、ずっと諦めずにいてくれたから……」 「俺が兄さんを諦めるなんて、ありえないよ」 アーノルドの熱い想いを、全身で感じる。 視線を上げると、喜びに輝いている漆黒の瞳。 エリオットは紺碧の瞳を潤ませて、愛しい弟を見つめ返した。 「僕を永遠の時の中から救い出してくれて、ありがとう……。本当に、ありがとう……」 「兄さん……っ」 悲願が達成された喜びの中、兄弟できつく抱きしめ合う。 言葉にできないほどの感謝と幸福が、胸の奥から溢れ出てきて止まらなかった。 「やっと……やっと悪夢が終わったよ……」 「うん、うん……」 悪夢から目覚めたアーノルドの顔を、エリオットは両手で包み込む。 「アーニー、よく頑張ったね……」 弟はうっとりと目を細めて、兄の手に頬を寄せる。 その仕草が十五年前と全く変わらなくて、エリオットは口元を緩ませた。 自分の体で弟に触れることができるのが、こんなに嬉しいなんて―― 喜びに満ちた顔をしているアーノルドの頬を、何度も優しく撫でていると、盗賊の声が耳についた。 そうだ。自分の体に戻って再会を喜んでいたが、まだ騒動は解決していない。 エリオットは、現実に引き戻されると、我が家を静かに見上げた。 「……兄さん、ごめんね。うちが盗賊に荒らされて……。後で、全部きれいにするから」 「気にしないでいいよ。荒れるほど、家の中に物はないしね」 実際、男たちは家を荒らして金品を盗もうとしているわけではない。 彼らが探しているのは、ショーン・コリンズの強大な魔力。 コリンズ家の人間として、何としても守らなければいけないものだ。 盗賊の手に渡るなんて、あってはならないこと。 先祖の力を守り抜くのは、当主としての重大な務めでもある。 しかし―― 「……アーニーの力なら、うちを覆ってる結界を破って逃げられるかな……?」 エリオットは、今のうちに逃げ去る提案をした。 盗賊の企てを阻止しようとすれば、今度こそ確実に命を狙われる。 アーノルドを、これ以上危ない目に遭わせたくはない。 やっと、自分の体で再会が叶ったのだ。 また悲しいことが起こってしまったら……。 そんなこと、もう一瞬だって考えたくない。 「……結界は壊せると思う。でも、俺は逃げずに盗賊と決着をつけたい」 アーノルドの決意に満ちた声に、エリオットはわずかに目を見開いた。 彼らは、アーノルドの命を奪おうとしていたのだ。 大魔導師の強い魔力に対して、様々な策を練っているはず。 それが行使されてしまえば、誰よりも強い力を持っているアーノルドだって、劣勢になってしまうかもしれない。 「分かってるよ。兄さんは、俺を心配してくれてるって。けど……俺はどうしても、あいつらを捕まえたい。脅迫に応じたのは、そのためでもあるんだ」 弟の漆黒の瞳には、闘志の炎が宿っている。 「兄さんを凍らせてしまったのは俺だ。でも、あの時……あいつらが侵入してこなかったら、ずっと兄弟で一緒に暮らせた。悪夢をみることはなかったんだ。俺は、兄さんとの十五年を奪ったあいつらが憎い。絶対に許せないんだ」 「アーニー……」 「だから、このまま逃げずにいてほしい。何があっても、兄さんのことは俺が守るから」 「……僕だって、アーニーに悲しい思いをさせた彼らを許したくない。捕まえられたらと思うけど……。盗賊の(かしら)が、強い魔法使いを何人も揃えてるって言ってたんだ。きっと、アーニーの魔力にも、あらかじめ対策がされてるよ。僕は、アーニーに危ないことはして欲しくない」 「今回は、俺だけじゃなくて、先祖の魔力もあるから大丈夫だよ」 「……盗賊は、お祖母(ばあ)様の本を上下巻とも解読して、準備万端だって言ってたよ?」 ショーンの力をこちらが手にするのは、難しい状況に思える。 不安な表情をするエリオットに、アーノルドは頼もしく微笑んだ。 「あいつらは、ちゃんと解読してないよ。うちの中を探し回ってるのが、その証拠だ」 「そうなの?」 「先祖の魔法を理解してたら、すぐに魔法陣の場所は分かるはず。だから、俺たちには勝機がある」 祖母の研究書には、ほとんど目を通せていないのに、アーノルドは詳細を知っているような口ぶりだ。 「あ……。アーニーは、ご先祖様の本を読んだんだね」 祖母の研究書とは別に、ショーンのものが一冊あった。 盗賊は手に取らなかったので、アーノルドは無事に持ち帰れただろう。 「あの本は研究のわずかな断片で、有力な情報は何も得られなかったんだ。でも、仮説は一通り立てられた。まだ確証はないけど、あいつらには魔力を盗めないと思う」 「本当に?」 アーノルドは自信たっぷりに頷いた。 「アーニーの頭の中には、盗賊に勝つ道筋ができてるんだね」 「うん。絶対にあいつらは捕まえる。任せて」 若き天才大魔導師の頼もしい言葉に、心が軽くなるのを感じた。 胸にある不安や恐怖が、盗賊と戦う意欲へと変わっていく。 「分かったよ。僕は、何があってもアーニーについて行く。二人で戦って、僕たちの十五年を奪った盗賊を、一人残らず捕まえよう」 全幅の信頼を寄せながら言うと、アーノルドは漆黒の瞳を嬉しそうに輝かせて、エリオットに抱きついてきた。 「ありがとうっ……兄さん、兄さんっ……!」 首筋にぐりぐりと額を擦りつけられて、エリオットは思わず笑い声を漏らした。 最愛の弟は、甘えん坊なところも、全く変わっていないようだ。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加