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17話
どれだけ暑い日差しを浴びても、全く溶けることのない氷。
呪いのようなそれは、コリンズ家を永遠の中に閉じこめて、異様な輝きを放ち続けている。
帝都民は、この十五年ですっかり見慣れただろうが、オリバーは違う。
住み慣れた家が氷漬けになっているのは、目を背けたくなるほど悲惨な光景だ。
失った人生。奪われたアーノルドとの時間。
そして、凍りついている自分自身。
異常な家と共に、それらが生々しく眼前に突きつけられる。
「どうせ逃げられねぇんだ。余計なことすんじゃねぇぞっ」
盗賊の一人に腕を強く引っ張られて、オリバーは我が家から強引に視線をはがされた。
結局、どうすればいいか頭を悩ませただけで、盗賊の隠れ家では何もできなかった。
昼前に足の拘束だけ解かれると、転移魔法に放り込まれて。
それからは一瞬だ。
心の準備をする間もなく、十数人の盗賊と共に、凍ったコリンズ家の前庭に立っていた。
――もうすぐ、正午だ……。
オリバーは、縛られている手を静かに見下ろした。
正午の鐘が鳴れば、ここにアーノルドが来てしまう。
土人形の兄を助けるために……。
「センセーが本当に共鳴を完全解明してんのか見ものだなぁ~」
側に立っている頭が、楽しそうな声音で言う。
「もし、共鳴が解明されてたら、歴史的にとんでもねぇことだよな」
「ありえねぇっすよ。殺されたくねぇから、テキトーなこと言ってんじゃないっすか?」
「けど、大魔導師を殺っちまうのは、うちの魔法使い総出でもキツいからなぁ。氷を消してくれたら、オレらは大喜びだ」
頭に続いて、手下たちが好き勝手に話している。
やはり、大魔導師が共鳴を完全解明したという話は、盗賊側も疑問視しているようだ。
今まで誰もできなかったことを、たった八年で成し遂げたというアーノルド。
信じられないのも当然だ。
助手として側にいたオリバーでさえも、真偽をはかりかねているのだから。
しかし、アーノルドのことだ。どちらにしろ、何か考えがあるに違いない。
盗賊の言いなりになる弟ではないとは分かっている。
――分かってるけど……。
このまま、アーノルドが来なければいいのにと思ってしまう。
本当に完全解明をしているのならば、尚更、脅迫に応じる必要はない。
土人形の兄は無視しておいて、盗賊が去った後に、ゆっくりと共鳴を解けばいいのだ。
オリバーは再び視線を上げて、凍りついた我が家を見つめる。
薄曇りの空の下。
氷の館は、これから起こることを静かに待っているように見えた。
「計画が失敗した時にはイラついたが、これはこれで楽しいもんだな。お前も助手として心が躍るだろ? センセーがしょうもない嘘つき野郎だったら、一緒に笑ってやろうぜ」
「…………」
心底愉快そうなのが腹立たしくて、オリバーは無言で顔を背ける。
助手の怒りが浮かんだ顔を見て、頭はおかしそうに笑った。
「そんなに怒んなよ。ほら、正午の鐘だ」
ご機嫌な声と共に、鐘の音が帝都中に鳴り響く。
とうとう、来てしまった。
約束の時間だ。
オリバーは、爪が白くなるほど、ぐっと手を握りこんだ。
――アーニー……お願い、お願い……来ないで――……
兄の願いも空しく、門扉の向こうに閃光が走る。
そして、現れた魔法陣の上には、大魔導師アーノルド・コリンズ。
見たくなかった弟の姿に、オリバーの心は激しく締めつけられた。
「大魔導師様のお出ましだ! 丁重にお通ししろよ~」
頭が、冗談交じりの口調で声を張る。
手下の魔法使いが、コリンズ家を覆う結界を一瞬だけ緩めると、門扉を開けてアーノルドが入ってきた。
足早に庭を突き進む弟は、まっすぐ兄を見つめてくる。
その切実な視線に、心が一層苦しくなった。
「コリンズ家へようこそ。時間厳守で嬉しいねぇ~」
相対する位置まで来た弟に、頭がふざけた挨拶をする。
思いきり顔をしかめたアーノルドは、盗賊たちを睨みながら口を開いた。
「約束通り、助手には危害を加えてないだろうな」
「俺たちは善良な盗人なんでね。助手殿は縛っただけで何もしてねぇよ」
オリバーの縛られた手首を見て、アーノルドは不愉快そうに眉根を寄せた。
「センセーこそ、ちゃんと約束は守れよ。共鳴は完全解明したんだろ? 嘘だったら、二人とも命はねぇからな」
「共鳴はすぐに解ける。ただし、助手の安全確保が前提だ」
「信用されてねぇなぁ~」
頭は大げさに笑うと、オリバーの背中を乱暴に押した。
「庭の真ん中辺りまで行け」
言われた通りの場所まで歩くと、体が水の膜に包み込まれる。
兄の身を守るために、弟が結界を張ってくれたのだ。
「今度はセンセーの番だ。早く氷を消してもらおうか」
アーノルドは無言で我が家に近づくと、そっと壁に手をあてる。
そして、軽く深呼吸をしてから、呪文の詠唱をはじめた。
皆が固唾を飲んで見守る中、弟の低い声が庭に広がっていく。
――アーニー……。今から、氷が消えるの……? 共鳴が解明できたって、本当に――?
期待と不安で、心がざわつく。
緊張で体が震えて、今にもへたり込みそうだ。
必死で両の足に力を入れてアーノルドを見つめていると、長い呪文が終わりを迎えた。
その刹那。
激しく光を放ちながら、全ての氷がきれいに消え失せていった。
「……こ、氷が……」
オリバーは、我が家を見上げて呆然とした。
十五年間も凍りついていたのが嘘のように。
三人の人間を飲み込んで、時を止めていたのが夢のように。
目前の館は、エリオットが見慣れたコリンズ家そのもの。
いつもの穏やかな佇まいだった。
「おいっ! 本気でやりやがったぞ!!」
「嘘だろ!?」
「凍った二人はどこだっ!?」
魔力共鳴が解かれた家の前で、男たちが驚愕に沸く。
それと同時に、オリバーの体が宙に浮いた。
「わっ……っ」
うろたえる間もなく、駆けてくるアーノルドの方へ引き寄せられると、すぐに胸の中へ抱え込まれた。
「兄さん……兄さんっ……」
強く激しく――
痛いほど抱きしめられる。
「アーニー……っ」
オリバーは目頭を熱くしながら、広い胸に頬を寄せた。
手を縛られているのが、もどかしい。
アーノルドの体を、めいっぱい抱き返したいのに……!
「ひどいことをされなかった?」
「縛られて眠らされてただけだよ。心配かけてごめんね」
顔を上げると、漆黒の目が切なげに細められる。
「こんなにキツく縛られて……。痛いよね。すぐに解くよ」
手首を縛っている縄を、弟が急いで解いてくれる。
「ありがとう……。アーニー……アーニーっ」
オリバーは自由になった手で、アーノルドの体を思いきり抱きしめた。
すぐに強く抱き返されて、頬に喜びの涙が伝う。
ずっと、こうして抱きしめたかった。
もう苦しまなくていい、兄はここにいるからと、全力で抱擁して、弟を孤独の中からすくい上げたかった。
「兄さんが無事でよかった……」
十五年前と変わらない柔らかな眼差しと口調で、優しく涙を拭われる。
弟の顔をはっきりと見たくて、懸命に泣き止もうとしていると、男の高揚した声が鼓膜を震わせた。
はっと意識を切り替えて顔を向けた玄関先には、十数人の盗賊の群れ。
扉の鍵をこじ開けると、屈強な男たちが再び沸いていた。
本来なら、アーノルドの命を奪ったとしても、共鳴が解けるとは限らなかった。
それが、何の苦労もなく館に入れるようになったのだ。
騒いで喜ぶのも当然といえる。
「さすが、大魔導師様はすげぇな~!!」
特に喜びをあらわにしている頭が、こちらに満面の笑みを向けてくる。
「これで、莫大な魔力は俺たちのもんだっ。お二人さんには、事がすんなり運んだ礼に、居心地のいい檻を用意してやるから、しばらく大人しくしてろよ」
そう言って、手下の一人に合図をした。
指名された男は、こちらに向かって呪文をとなえる。
すぐに薄い皮膜のようなものに体を包まれ、兄弟そろって結界に閉じ込められてしまった。
「大魔導師の魔力なら余裕で壊せるが、破壊の圧力に耐えられず、助手はあの世行きになる。私たちがここを立ち去るまで、動かないほうが身のためだ」
手下の言葉に、頭は満足そうに頷く。
そして、開け放たれた扉の奥へと視線を向けた。
「よしっ。お前ら、魔法陣を探すぞっ。探し方を間違えるなよ。少しの魔力反応も見落とすな!」
男たちは威勢よく返事をすると、我先にと家の中へ入っていく。
あっという間に前庭には誰もいなくなり、兄弟だけが残された。
共鳴さえ解けてしまえば、自分たちは用済みだ。
命を奪うまでもないのだろう。
「兄さん。痛くない?」
縛られて赤くなった手首を、アーノルドが優しく撫でてくる。
「うん。もう痛くないよ」
「ごめんね……俺のせいで……」
「アーニーのせいじゃないよ。それに、今の僕は、何をされたって大事にはならないしね」
……オリバー・イートンは動く土塊で、命を奪われようのない人質だ。
「アーニーは……僕が土人形だって、もう知ってるよね?」
「うん……」
「なら、脅迫なんて無視してよかったんだよ? 共鳴を解明してたのなら、尚更――」
「何で、そんなこと言うの……?」
一心に兄を見つめる弟の表情が、悲しげに曇る。
「土人形だって、恐怖も痛みもあるよね。俺に、兄さんを見殺しにしろって言うの?」
「それは……」
「そんな残酷なこと、できるわけないっ」
アーノルドは、再び兄を抱きしめる。
「俺は、兄さんが苦しい思いをするのは嫌だ……っ」
「アーニー……」
「絶対に嫌なんだっ」
想いの深さを示すように、ぎゅっと強くなる腕の力。
「……僕は、アーニーの優しさに救われてばかりだね。十五年前から、ずっと……」
オリバーも負けじと抱き返して、アーノルドの愛情をしっかりと噛みしめた。
「氷が消えた時は、ものすごく驚いたよ。完全解明できてたんだね……」
「兄さんが助手になってくれてから、ぐっと研究が進んでたんだ。って言っても、呪文が完成したのは今朝だけどね」
「……そんなぎりぎりに?」
直前での完成に、オリバーは目を丸くした。
きっと、兄を助けるために、自分を追い込んで仕上げたのだ。
「本当にごめんね……。完全解明はアーニーの努力の結晶なのに、盗賊のために解くことになって……」
「謝らないで。どんな形だろうと、共鳴を解くのが俺の目的だったから」
アーノルドは優しく笑むと、我が家の方に視線を向けた。
「兄さん。実はね、共鳴は完全に解いてないんだ」
「え? そうなの?」
「うん。呪文で操作して、時は止めたままにしてる」
「あ……。だから、僕はまだ動いてるんだね」
エリオットの時が流れていれば、土人形であるオリバーの自我はなくなるはず。
「さすがに、盗賊の前で兄さんが土に戻るのはまずいと思って。もうすぐ、時止めの魔法も解けて、兄さんの意識は本体に戻るよ。そうしたら、俺は結界を壊して外に出るね」
アーノルドならば余裕で壊せると、手下の男が言っていた。
懸念点であるオリバーがいなくなれば、造作もないことだろう。
「兄さんは、体に戻ったら、すぐにここへ――」
アーノルドの語尾が闇に溶けて、急に周囲が暗転した。
――こ、これは――……
一瞬だけ気が遠くなり、はっと意識が戻ると、目の前には中途半端に開いた窓。
九歳のアーノルドを放り投げた勢いが余って、エリオットは盛大に転びそうになった。
――僕の体に戻った――!!
土人形ではない、生身の体。
あまり実感はないが、十五年の時を経て動きはじめた自分の体。
エリオットは、転びそうになった体勢を慌てて立て直した。
そして、周囲を見回していると、目の前で水の膜がぱちんと弾けた。
さすがは大魔導師。エリオットの体にも、結界を張っていてくれたようだ。
――騒いでた男たちは、誰もいないな……。
十数人の盗賊は、ショーンの魔力探しに必死なようで、玄関ホールは静かだ。
意外なことに、一緒に凍っていた二人の男は、床に倒れ伏していた。
共鳴が起こったと同時に失神していたのか。全てが解けても、意識を取り戻していない様子だ。
「アーニーっ!」
エリオットは、弟を呼びながら一目散に駆け出した。
玄関前にある数段の階段を飛び越えて、結界の中にいるアーノルドの傍に走っていく。
「元に戻ったよ!!」
「兄さんっ。体に違和感はない?」
「うん。大丈夫」
アーノルドは、安堵の表情を浮かべると、両手で結界に触れた。
その足元には、オリバーだったであろう土の山。
つい先ほどまで、この土塊が自分の体だったなんて、不思議な気持ちだ。
「俺もすぐに出るから、少し下がっていて」
エリオットを安全な場所にまで下がらせると、アーノルドは魔法で結界に圧力をかけはじめた。
すると、皮膜が震えて、細かくヒビ割れていく。
そのヒビが隅々にまで行き渡ると、結界が跡形もなく消滅した。
「兄さんっ……兄さんっ……」
結界を壊したアーノルドが、エリオットを勢いよく抱きしめた。
「兄さん……十五年ぶりの兄さんだ……っ」
「アーニー……」
きれいな金色の髪に頬ずりをしながら、弟は震える声で兄を何度も呼ぶ。
「アーニーのおかげだよ。十五年間、ずっと諦めずにいてくれたから……」
「俺が兄さんを諦めるなんて、ありえないよ」
アーノルドの熱い想いを、全身で感じる。
視線を上げると、喜びに輝いている漆黒の瞳。
エリオットは紺碧の瞳を潤ませて、愛しい弟を見つめ返した。
「僕を永遠の時の中から救い出してくれて、ありがとう……。本当に、ありがとう……」
「兄さん……っ」
悲願が達成された喜びの中、兄弟できつく抱きしめ合う。
言葉にできないほどの感謝と幸福が、胸の奥から溢れ出てきて止まらなかった。
「やっと……やっと悪夢が終わったよ……」
「うん、うん……」
悪夢から目覚めたアーノルドの顔を、エリオットは両手で包み込む。
「アーニー、よく頑張ったね……」
弟はうっとりと目を細めて、兄の手に頬を寄せる。
その仕草が十五年前と全く変わらなくて、エリオットは口元を緩ませた。
自分の体で弟に触れることができるのが、こんなに嬉しいなんて――
喜びに満ちた顔をしているアーノルドの頬を、何度も優しく撫でていると、盗賊の声が耳についた。
そうだ。自分の体に戻って再会を喜んでいたが、まだ騒動は解決していない。
エリオットは、現実に引き戻されると、我が家を静かに見上げた。
「……兄さん、ごめんね。うちが盗賊に荒らされて……。後で、全部きれいにするから」
「気にしないでいいよ。荒れるほど、家の中に物はないしね」
実際、男たちは家を荒らして金品を盗もうとしているわけではない。
彼らが探しているのは、ショーン・コリンズの強大な魔力。
コリンズ家の人間として、何としても守らなければいけないものだ。
盗賊の手に渡るなんて、あってはならないこと。
先祖の力を守り抜くのは、当主としての重大な務めでもある。
しかし――
「……アーニーの力なら、うちを覆ってる結界を破って逃げられるかな……?」
エリオットは、今のうちに逃げ去る提案をした。
盗賊の企てを阻止しようとすれば、今度こそ確実に命を狙われる。
アーノルドを、これ以上危ない目に遭わせたくはない。
やっと、自分の体で再会が叶ったのだ。
また悲しいことが起こってしまったら……。
そんなこと、もう一瞬だって考えたくない。
「……結界は壊せると思う。でも、俺は逃げずに盗賊と決着をつけたい」
アーノルドの決意に満ちた声に、エリオットはわずかに目を見開いた。
彼らは、アーノルドの命を奪おうとしていたのだ。
大魔導師の強い魔力に対して、様々な策を練っているはず。
それが行使されてしまえば、誰よりも強い力を持っているアーノルドだって、劣勢になってしまうかもしれない。
「分かってるよ。兄さんは、俺を心配してくれてるって。けど……俺はどうしても、あいつらを捕まえたい。脅迫に応じたのは、そのためでもあるんだ」
弟の漆黒の瞳には、闘志の炎が宿っている。
「兄さんを凍らせてしまったのは俺だ。でも、あの時……あいつらが侵入してこなかったら、ずっと兄弟で一緒に暮らせた。悪夢をみることはなかったんだ。俺は、兄さんとの十五年を奪ったあいつらが憎い。絶対に許せないんだ」
「アーニー……」
「だから、このまま逃げずにいてほしい。何があっても、兄さんのことは俺が守るから」
「……僕だって、アーニーに悲しい思いをさせた彼らを許したくない。捕まえられたらと思うけど……。盗賊の頭が、強い魔法使いを何人も揃えてるって言ってたんだ。きっと、アーニーの魔力にも、あらかじめ対策がされてるよ。僕は、アーニーに危ないことはして欲しくない」
「今回は、俺だけじゃなくて、先祖の魔力もあるから大丈夫だよ」
「……盗賊は、お祖母様の本を上下巻とも解読して、準備万端だって言ってたよ?」
ショーンの力をこちらが手にするのは、難しい状況に思える。
不安な表情をするエリオットに、アーノルドは頼もしく微笑んだ。
「あいつらは、ちゃんと解読してないよ。うちの中を探し回ってるのが、その証拠だ」
「そうなの?」
「先祖の魔法を理解してたら、すぐに魔法陣の場所は分かるはず。だから、俺たちには勝機がある」
祖母の研究書には、ほとんど目を通せていないのに、アーノルドは詳細を知っているような口ぶりだ。
「あ……。アーニーは、ご先祖様の本を読んだんだね」
祖母の研究書とは別に、ショーンのものが一冊あった。
盗賊は手に取らなかったので、アーノルドは無事に持ち帰れただろう。
「あの本は研究のわずかな断片で、有力な情報は何も得られなかったんだ。でも、仮説は一通り立てられた。まだ確証はないけど、あいつらには魔力を盗めないと思う」
「本当に?」
アーノルドは自信たっぷりに頷いた。
「アーニーの頭の中には、盗賊に勝つ道筋ができてるんだね」
「うん。絶対にあいつらは捕まえる。任せて」
若き天才大魔導師の頼もしい言葉に、心が軽くなるのを感じた。
胸にある不安や恐怖が、盗賊と戦う意欲へと変わっていく。
「分かったよ。僕は、何があってもアーニーについて行く。二人で戦って、僕たちの十五年を奪った盗賊を、一人残らず捕まえよう」
全幅の信頼を寄せながら言うと、アーノルドは漆黒の瞳を嬉しそうに輝かせて、エリオットに抱きついてきた。
「ありがとうっ……兄さん、兄さんっ……!」
首筋にぐりぐりと額を擦りつけられて、エリオットは思わず笑い声を漏らした。
最愛の弟は、甘えん坊なところも、全く変わっていないようだ。
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