18話

1/1
前へ
/23ページ
次へ

18話

「……ずっと、ここに帰ってきたかった……」 玄関ホールに立ったアーノルドが、ぽつりとつぶやく。 幾度となく繰り返されただろう、深い絶望や激しい渇望……。 弟の声には、そんな積年の想いがにじんでいた。 「おかえり。アーニー……」 「……兄さんにおかえりって言ってもらうの、一日に千回は想像してた」 漆黒の瞳を潤ませて、小さく笑うアーノルド。 「……アーニーが望むなら、何度だって言うよ」 エリオットは優しく微笑み返すと、弟の手をぎゅっと握りしめた。 兄弟そろって十五年ぶりに足を踏み入れたコリンズ家は、長く凍りついていたとは思えないほど、いつも通り。 穏やかな日常が奪われていたことなど、知りもしないようだった。 「うちに先祖の魔力が封じられてるって、考えたこともなかった。両親も知らなかったんだよね?」 「そうだと思う。五代前のご先祖様のことは、子供のころに沢山聞かされたけど……。まさか、そんな偉人の魔力がうちに眠ってるなんて、未だに信じられない気持ちだよ」 エリオットは、我が家をしみじみと(あお)ぎ見た。 「魔力は、どこにあるんだろう? 僕が知らない隠し部屋……とか?」 「ショーンの力は、この家自体に封じられている。それを解放する鍵となる魔法陣が、うちのどこかに隠されているんだ」 「盗賊が魔法陣を探せって言ってたね」 「祖母の本に、魔法陣を発動させる呪文は記されていただろうから。それさえ唱えれば、あいつらは簡単に強大な魔力が手に入ると考えているんだ」 「……アーニーは、その魔法陣が隠されている場所が分かるの?」 「これでも、八年ほど魔法学を研究しているからね。簡単なことだよ」 アーノルドは、得意気な表情を、エリオットに向けた。 「魔法は、ここ百年ぐらいで急速に発展して、どんどん最適化されているんだ」 「年々、色んなことが可能になってるもんね」 「うん。より万能になり、旧時代に比べて、呪文は短く、魔法陣は小さくなっている。その歴史をふまえると、百年以上前のショーン・コリンズが作った魔法陣は、俺たちの想定よりも、ずっと巨大なはずなんだ」 なるほど。現在の常識で考えてはいけないのか。 そういえば、ショーンの封魔書から出てきた魔法陣は大きかった。 「そして、その大きな魔法陣が描ける場所は、うちには一か所しかない」 「……あっ!!」 エリオットは一つの答えに思い至って、目を見開いた。 「こ、ここっ! 玄関ホール!!」 昔から、家の規模に比べて、玄関ホールがやけに広いのを疑問に思っていた。 この家を建てたのはショーン・コリンズ。 建設時に、自分が作った魔法陣を描けるぐらいの広さにしたのだ。 「あいつらは魔法陣の大きさを考えてないから、見当違いのところばかり探しているんだ」 「家に入ってすぐの所にあるとは思わないだろうしね……」 エリオットは、そっと足元に視線を移した。 二十一年間、何気なく行き来していた玄関ホール。 ここに百年以上前から、魔法陣が隠されていたなんて……。 「でも……さすがに、このまま隠し通すのは無理だよね」 「魔法陣は見つかっていいんだ。むしろ、ここにあいつらを呼ぶつもり」 「えっ!?」 予想外な言葉に、エリオットは再び目を見開いた。 魔法陣の場所を知られてしまうのは、こちらの不利になってしまうのではないか。 「祖母の本にある呪文を知りたいからね」 ――知りたいって……どうやって――!? エリオットの数々の疑問をよそに、アーノルドは十五年前の侵入者のもとへ歩いていく。男二人は、やっと意識を取り戻したようで、ゆっくりと身を起こしているところだった。 「家中を嗅ぎまわっている、お前たちの仲間をここに集めろ。魔法陣は玄関ホールだと伝えればいい」 見知らぬ男からの突然の命令に、侵入者たちは戸惑いの表情を浮かべている。 十五年の時が流れて、目の前にいた九歳の男児が成長したとは思いもしないだろう。 「早くしろっ!」 鋭い声と共に、アーノルドは水の(やいば)を突きつける。 男たちは戸惑った表情のまま慌てて立ち上がると、仲間を探して玄関ホールから走り去っていった。 「アーニー……。本当にいいの?」 「大丈夫だよ。捕まえるためには集めないと」 「そんな、虫みたいに……」 「俺たちからすれば、あいつらは虫以下の存在だ」 吐き捨てるように言うと、アーノルドはエリオットを抱きよせた。 「兄さん。盗賊がここに来る前に、やっておきたいことがあるんだ」 「うん。僕にも手伝えること?」 「もちろん。兄さんと俺の魔力を共鳴させたい」 「き、共鳴!?」 ――どういうことっ!? 不穏な要求に、エリオットは思わず声を大きくした。 「そ、そんなことをしたら大事に――」 「平気だよ。俺は魔力共鳴を自在に操れるようになったんだ」 アーノルドは優しい表情で、兄を見つめる。 「兄さんに悲しい思いをさせることは絶対にないから。俺たちの魔力を一つにさせてほしい」 ――そうか……。魔力共鳴は、もう脅威じゃなくなったんだ……。 世界中で恐れられてきた魔力共鳴。 悪魔の災禍(さいか)とまで言われた現象を、アーノルドはとてつもない努力の末に、自分のものとしたのだ。 「……僕の少ない魔力で役に立てる?」 「兄さんの魔力が一番重要なんだよ」 アーノルドは、兄のなめらかな頬を一撫ですると、共鳴の呪文を唱えはじめた。 「あ、アーニー……胸が……っぁ」 エリオットは、思わず弟にすがりつく。 呪文が全身に広がっていくような感覚と共に、胸がカッと熱くなった。 まるで、太陽が胸の中に現れたような、絶対的な光と温かさ……。 その中心に、自分とは別の存在を感じた。 ――これは、アーニーだ――…… そう認識した途端、体中に水の魔力が行きわたった。 想像を凌駕(りょうが)する、とてつもなく強大な力……。 自分の中に、風と水の魔力が共存する、不思議な気持ち。 しかし、それは全く不快ではなくて―― 「……俺の魔力を感じる?」 「うん……」 「俺も、兄さんの優しい風の力を感じるよ……」 アーノルドは、心の底から嬉しそうな顔をした。 「これで、先祖の――」 「おいっ! どういうことだ!!」 弟の声が、(かしら)の怒鳴り声でかき消された。 十五年前の侵入者に呼ばれた盗賊たちが、続々と玄関ホールに集まってきたようだ。 「……センセーは、魔法陣の場所を知ってたのかよ」 全員そろった盗賊の中心で、苦虫を噛み潰したような顔になる(かしら)を、アーノルドは鼻で笑った。 「少し考えれば、誰でも分かることだ。お前らには、無理だったようだが」 大魔導師の明らかな挑発に舌打ちすると、(かしら)はエリオットに視線を移した。 「お兄ちゃんと再会を楽しみたかったのは分かるが、助手を犠牲にして結界を破ったのか? まさか、助けた助手を、すぐには殺さねぇよなぁ?」 エリオットとオリバーが同一人物と知らない(かしら)からすれば、アーノルドが助手の命を犠牲にして、結界を破ったように思えるのだろう。 「そんなことはどうでもいい。早く魔法陣を出現させろ」 「せっかちだねぇ~」 (かしら)は、仲間の一人に、魔法陣の存在を確認させた。 「ここにあるのは、間違いねぇようだな」 そうつぶやくと、懐疑的な視線をこちらに向けてくる。 「それで……何で、こっちに協力してんだよ」 「もう、厄介ごとは沢山なんだ。俺たちは、ここで静かに暮らしていきたい。魔力でも何でも好きに奪って、さっさと帰ってくれ」 いかにも面倒そうに話すアーノルドに、(かしら)得心(とくしん)したように笑った。 「そうだよなぁ。十五年ぶりのお兄ちゃんだもんなぁ~! 分かった、分かった。邪魔者は魔力をちょうだいして、すぐにずらかってやるよ。おい、呪文だっ」 声をかけられた男が、持っていた祖母の研究書を開く。 すぐに呪文が聞こえてきて、アーノルドはそれを静かに見据えていた。 ――アーニーは……どういう考えなの――? このままだと、魔法陣が出現して、ショーンの魔力が盗賊のものになってしまう。 エリオットは胸をざわつかせながら、アーノルドを見上げた。 漆黒の瞳には何の焦りもなく、落ち着いた光をたたえている。 自分だけが不安に囚われている中で、盗賊は長い呪文を順調に詠唱(えいしょう)していった。 そして―― 「出現しねぇじゃねぇか!」 (かしら)の荒い声がホールに響いた。 呪文が終わっても、辺りは静かなまま。 魔法陣の気配は微塵もなかった。 「お前、呪文を間違えたんじゃねぇのかっ」 「そ、そんなことは――」 (かしら)に責められた男は困惑している。 どうして、魔法陣が発動しなかったのか。 首をかしげながら再び呪文を唱える男を見て、アーノルドは静かに口角を上げた。 「かかったな」 「え?」 弟の考えが全く分からずにいると、アーノルドに肩を抱きよせられる。 それと同時に、幾つもの巨大な水岩が、勢いよく盗賊に襲いかかった。 突然の大魔導師による攻撃魔法に、油断していた男たちが吹き飛ばされる。 「くそっ。あいつらを殺せっ!!」 (かしら)の命令で、手下がこちらに向けて攻撃を放ってきた。 しかし、計画性のない攻撃は、アーノルドにとっては大したものではないらしく、軽い防御魔法で防いでいる。 「ア、アーニー……っ」 「あいつらの攻撃は、しっかりとかわすまでもないよ。次は、俺たちの番だ」 アーノルドは騒ぐ盗賊たちを一瞥(いちべつ)すると、呪文を口に乗せた。 ――この呪文は、さっき盗賊が唱えていた……。もしかして、聞きながら覚えたの――!? 驚いているエリオットの隣で、アーノルドは聞いたばかりの呪文を一言一句(たが)わずに唱えている。 激しさを増していく盗賊の攻撃も、こともなげに対応して、たんたんと詠唱を続けた。 そうして、最後の一文字が大魔導師の口から紡がれた刹那。 玄関ホールの床が激しく発光した。 あまりの光に意識が飛びそうになり、エリオットは弟の広い胸に抱きついた。 「兄さん……成功したよ」 アーノルドの満足気な声と共に、強い光が徐々に形を成していく。 それは皆が呆然と見つめる中で、ゆっくりと巨大な魔法陣となった。 「これが、ショーン・コリンズが遺した魔力だ」 魔法陣の奥に、莫大な風の魔力を感じて、エリオットは体を震わせた。 「す、すごいね……」 共鳴している弟の魔力もすさまじいが、ショーンのそれも、恐怖を覚えてしまうほどのものだった。 「この魔法陣は、あの封魔書と同じく、兄さんにしか発動できないんだ。呪文の中に条件付けがしてあって、コリンズ家の直系にしか反応しないようになっている。予想通りで助かったよ」 「だから、盗賊だと反応しなかったんだね。あ……それなら、僕が呪文を唱えないといけなかったんじゃないの?」 「今の俺たちは、魔力共鳴で一心同体になってるから、どっちが唱えてもいいんだよ」 「そのために、あらかじめ共鳴させてたんだね……!」 アーノルドは意気揚々と頷いた。 全ては、大魔導師様の思惑通りといったところか。 「お前っ。ふざけんなよっ!!」 魔力奪取(だっしゅ)が失敗して、怒鳴る(かしら)に、アーノルドは勝利の笑みを向けた。 「この魔力は、兄にしか承継できない。お前たちは、盛大な無駄足だったってことだ」 「なに……っ!?」 盗賊たちは、驚愕に顔をゆがめる。 これだけのことをしておいて、最初から自分たちが盗めるものではなかったと知れば、衝撃も相当なものだろう。 「さぁ、兄さん。一緒にあいつらをやっつけよう」 アーノルドが手を掲げると、魔法陣から一陣の風が吹いた。 すると、共鳴している兄弟の体内に、とてつもない魔力が注がれはじめた。 ――ご先祖様の魔力が、僕たちに……っ。 「アーニー……っ。ま、魔力が強すぎて……ぅっ」 桁外れの魔力が体内で溢れかえる未知の感覚に、エリオットは怖気づく。 「怖くないよ。俺も一緒だから。大丈夫、大丈夫」 怯える兄の背中を撫でながら、弟は先祖の魔力を全て吸収していく。 そして、承継が完了すると―― 「ア、アーニー……」 「すさまじい力だね……」 百年以上も眠っていた伝説級の力が、完全に目を覚ました。 莫大な風の魔力は体内を駆け巡り、アーノルドの水の魔力と共鳴して、何倍にも膨れ上がる。 まるで人とは思えない。 高位の魔物も恐れをなして逃げ出しそうなほどの強く大きな力が、二人の中に流れていた。 「いくよ……。兄さん」 「うん……」 その悪魔のごとき力を、アーノルドが盗賊たちに向けた。 共鳴して爆発的な力を得た水と風が、たちまち咆哮(ほうこう)を上げる。 吹き荒れる強烈な爆風。 暴れ狂う巨大な水岩。 玄関ホールいっぱいに現れたそれらが、エリオットたちの目前で合体した。 ――こんな……一瞬で帝都を破壊しつくしてしまいそうな力が、僕たちの手中に――…… 恐れおののく兄の横で、弟は眉一つ動かさずに未曽有(みぞう)の魔力を行使する。 「や、やめろ……っ!!」 「くるなっ……!」 世界最恐の魔物と化した力を前に、男たちは悲鳴を上げながら逃げ惑う。 しかし、玄関ホールから出ることは叶わない。 圧倒的な水と風に襲われて、人形のように吹き飛ばされると、瞬く間に一人残らず意識を失った。 「まだ足りない……。こいつらは、手に入りもしない力のために、俺たちの十五年を奪ったんだ……」 倒れ伏している盗賊たちに、更なる憎しみの視線を送るアーノルド。 「アーニーっ。もういいんだよ……っ」 エリオットは、再び攻撃しようとしている弟の体を、ぎゅっと強く抱きしめた。 アーノルドの深い憎しみは当然のものだ。 時間が止まっていた自分と違って、弟はずっと孤独の中にいた。 絶え間ない苦しみの底に置き去りにされていたのだから。 けれど……復讐は、アーノルドの尊厳を汚してしまうだけ。 憎き盗賊と同じ場所にまで堕ちる行為だ。 「最低な犯罪者のことなんか、もう考えないで」 「でも――」 「あとは司法の判断に委ねよう。ね?」 エリオットは、憤る漆黒の瞳を必死に見上げる。 「彼らには、確実に重い刑罰が待ってる。僕たちが憎しみをぶつけるまでもないんだ」 「…………」 「僕は、アーニーとご先祖様の素晴らしい力を、あんな人たちに使ってほしくない」 「兄さん……」 「それに、アーニーが誰かを痛めつける姿は見たくないよ」 「……うん……」 アーノルドは小さく頷くと、静かに憎しみの(ほこ)をおさめた。 「ありがとう。アーニー……」 水と風の膨大な魔力の渦中で、兄弟は強く抱きしめ合う。 エリオットの優しい温もりに(ひた)って、アーノルドは荒ぶる感情を静めていった。 「……二つの力が交わると、こんなにも強大になるんだね」 「共鳴することによって、力が増幅するから。ここまでの魔力を持った人間は、たぶん俺たちが初めてだよ」 「僕、アーニーと一緒じゃなかったら、怖すぎて気絶してると思う……」 腕の中でぶるりと身を震わせる兄に、弟は愛おしそうな目を向ける。 「二人だと、何も怖くないよ。凶悪な魔物のような力だって、自由自在だ」 アーノルドは、渦巻く魔力を落ち着かせると、エリオットの体内を風の力で満たした。 「この風の魔力は、全て兄さんのものだよ」 「うん……」 エリオットは、そっと瞼を閉じた。 体の隅々にまで、莫大な風の魔力が流れているのが、はっきりと感じられる。 ――強い風の魔力を持ってるって、こんな感覚なんだ――…… 子供の時から憧れていた、強い魔力。 いつだって羨ましくて、欲しくてたまらなかった。 これさえあれば、もっと豊かになれる、もっと幸せになれると思っていた。 でも―― 「アーニー……。この魔力を、再び封じることってできる?」 兄の言葉に、アーノルドがわずかに目を見開いた。 「……いいの?」 「こんなに強い力は、僕には荷が重いから。持て余してしまうよ」 漆黒の瞳をまっすぐ見上げながら、エリオットは微笑んだ。 「コリンズ家には、国一番の魔力を持った、天才大魔導師がいるからね。僕には、この力は必要ないんだ」 「兄さん……」 「……お願い。アーニー」 「……分かったよ。ショーンの魔力は再封印するね」 エリオットの望み通り、アーノルドは封印の呪文を口に乗せた。 低い声が周囲に響き、頭上を行き交っていた風が徐々に止んでいく。 ――あっ……ご先祖様の力が……体から抜けて――…… 全身を巡る莫大な魔力が、少しずつ我が家に戻るのが分かった。 ショーンの力がなくなり、エリオットの弱い力だけが残される。 ――やっぱり……僕には、この程度の魔力が身の丈に合ってるな……。 馴染みの感覚に安堵していると、長い呪文の最後の一文字が、弟の口から紡がれる。 すると、強大な魔力を再び封じた魔法陣は役目を終えて、そっと足元から消え去っていった。 先程までとは打って変わって、静寂に包まれる玄関ホール。 水と風が荒れ狂っていたのが幻かと思うほどだが、重なるように倒れている盗賊たちの姿が、ここで起きたことの激しさを物語っていた。   「アーニー。終わったね……」 「うん」 ショーン・コリンズの魔力を巡る騒動が、十五年の時をかけて、やっと終わりを迎えた。 失ったものは大きく、決して万事解決とは言えないが、コリンズ家は平穏を取り戻せたのだ。 「あ……僕たち、まだ共鳴したままだよ」 ショーンの魔力に気を取られて、兄弟で共鳴したことを忘れていた。 意識を向けると、胸の中にアーノルドの強い魔力をしっかりと感じる。 「俺、兄さんと共鳴してると心地いいから、このままでいい?」 「えっ……僕は、アーニーの魔力が強すぎて、ちょっと気持ちがそわそわするよ」 「すぐに慣れるよ」 「な、慣れないよっ」 共鳴の継続に狼狽(うろた)えていると、外が騒がしくなった。 「誰……!?」 「警吏(けいり)と魔法省の人間だよ。外で待機してたから、盗賊の結界が消えて入ってきたんだ」 アーノルドの言葉と同時に、沢山の人が扉を開けて入ってきた。 「エリーっ!」 その中から、眼鏡をかけた亜麻色の髪の男が、こちらに駆けてくる。 「スティーブ!!」 エリオットの姿を見て、スティーヴンは心から嬉しそうに表情を緩ませた。 「……十五年ぶりだ」 「うん……」 「全部、上手くいったんだな」 倒れている盗賊たちを見て、親友が安堵に目を細める。 「アーニーの作戦が成功したんだ。僕も、こうして自分の体に戻れて一安心だよ。ずっと……心配かけてごめんね。オリバーのことも、黙っていたせいで迷惑をかけたよね……」 「エリーが無事なら、それでいい」 「……ありがとう。あっ、レイ君たちは――」 オリバーを作ってくれた二人に思い至って、エリオットは慌てた。 土人形の件で、大変なことになっていないだろうか。 「大丈夫だ。全ては内々に済ませたから。彼らが罰せられることはないよ。ただ、俺からはきつく叱っておく」 「そ、それは……っ。今回のことは、僕が無理を言ったからなんだ。二人は何も悪くないんだよっ」 レイたちは、エリオットの無茶苦茶な要望に応えてくれただけ。 怒られるのならば、自分一人でいい。 そう言おうとしたら、後ろからアーノルドに抱きよせられた。 「スティーヴン。後始末は任せた。余計に汚すなよ」 足元が光って、魔法陣が現れる。 これは……転移魔法だ。 「あ、アーニーっ。ちょっと待っ――」 まだ、スティーヴンと話している途中なのに。 目の前が光って、スティーヴンが、コリンズ家が、遠くなる。 そして、瞬く間に光は消えて―― 周囲に現れたのは、埃まみれの本や資料の山。 側には、古い木製の机。 転移先は、住み慣れたアーノルドの部屋だった。 cd6542e8-c225-47a0-9b82-2781623a7f0e 十五年ぶりに時を刻み始めたエリオット
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加