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番外編 プロポーズといつかの夢(1)
羽柴がベトナムに赴任してきて、はや三ヶ月。
仕事にも慣れてきた頃合いだろうと、犬飼は羽柴に声をかけ、息抜きがてら旧市街を訪れていた。
「おおーっ、なんだかテーマパークに来たみたいっすね!」
感嘆の声を漏らし、羽柴は辺りをきょろきょろと見回す。
ホイアンでは月に一度、ちょうど満月にあたる旧暦・十四日の夜に、ランタン祭りが開催される。その名のとおり、市街中の街灯が落とされ、無数のランタンに彩られるなか祭事を楽しむのだ。
日本でいう、縁日のような雰囲気に近いだろうか。街全体が幻想的な空気に包まれて、別世界に迷い込んだかのような錯覚さえ覚える。
「……デートにはもってこいだな」
「で、でぇと!?」
「なんだ? 仕事終わりだからって、まだ上司と部下の気でいたのか?」
犬飼がからかうように言えば、羽柴はすぐさま首をぶんぶんと横に振って、肩を抱いてきた。仕事とプライベートの使い分けが下手というか、相変わらず不器用な男だ。
(ま、こんなところも愛おしいが)
羽柴の好きにさせてやりながら、ノスタルジックな市街の散策を楽しむことにする。
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