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第40話 熱の行く先
コレは、言ってしまえば殿下の想いの強さ。勿論、とても嬉しい。でも気まずさが勝って視線を彷徨わせると、そんな私を見て殿下は笑った。
「リージュも感じてるんでしょ? 足、閉じようとしたよね。ちゃんと僕を男として見てくれてるんだ……ありがとう」
幸せを嚙みしめるように囁く殿下の声は、更に私の体を熱くする。きっと、殿下も年齢の差を気にしているのだろう。年を越して、私は十九になっていた。婚約が発表されてはいても、まだ婚姻には至っていないから、殿下の元には沢山の釣書が届いていると聞いている。婚約相手が年増の、しかも家格の低い伯爵家だもの。あわよくばと考えるのも頷けた。
年齢差は、絶対に埋まらない距離。背丈はあっという間に追い越されたけれど、こればかりはどうにもならない。私も、殿下も十二分に分かっている。それでも、惹かれる想いは止める事はできなかった。
こうして二人共にお互いを求め合い、感じあえる事は奇跡に近い。世界は広く、人は星の数ほど存在する。その中で同じ国に生まれ、出会い、愛し合えた。遠い昔の契約や精霊王の采配なのかもしれないけれど、今はそれに感謝しよう。
私はそっと殿下の頬に手を伸ばし、視線を合わせた。
「殿下は私にとって、最愛の男性です。その、恥ずかしいですが、殿下が反応してくださるのは、私も嬉しくて……でも慣れていないので、お手柔らかにお願いします……」
どんどん小さくなっていく私の声に、殿下はまた笑う。
「僕だって慣れてないよ。リージュが初めての人だもの。怖い時は言ってね。何よりもリージュが優先だから。女性の痛みは僕には分からないし、できるだけ優しくしたい。もう嫌だって言われたら立ち直れないよ」
殿下は明るく言うけれど、想ってくれているのがよく分かった。
でも。
「あの、本当に私が初めてなのですか? それにしては手慣れてるような……」
言いかけた私に、殿下の瞳がすっと細くなる。
「リージュが初めてだよ。他の女に手を出そうなんて気にはなれないし。信じられない?」
声も数段低くなり、妖しい光が瞳をよぎった。
なんだか、火に油を注いだような……。
「じゃあ、前言撤回。やめってって言っても、止まらないから。僕がどれだけリージュを愛しているか、その体に刻んであげる。覚悟しててね」
私の胸元を長い指でなぞり、とてもいい笑顔で宣言する殿下。声を発せずにいると、口づけを落として立ち上がる。
「それじゃ、また夜に。どんな声で鳴いてくれるのか、楽しみにしてるよ」
それだけ告げると、扉の向こうに消えていった。
私はといえば、頭がついていかず、ぼけっとソファに寝転がったままだ。なんだか殿下のご機嫌を損なったのだけは分かったけれど。
再び扉の開く音が聞こえて、やっと起き上がると、そこにはネフィがいた。その顔は呆れを隠そうともしていない。溜息を吐きながら、苦言を呈す。
「リージュ様、男女の仲に疎いのは存じておりましたが、ここまでとは……一言余計でしたね」
そう言われて、私は頬を膨らませた。
「何よ、何がいけなかったの? 私何かした?」
頭の中は疑問符だらけだ。私は殿下が好きだって伝えただけなのに、何故か殿下の様子が変わって、何が気に障ったのかまるで分からない。ネフィはお茶を淹れながら、また溜息を吐いた。
「殿下は、リージュ様が初めての女性だと仰ったのですよ? 五歳の時にお会いしてから、ずっとリージュ様を想っておいでだったのです。十代の男の子は多感なんです。想い人がいるのなら、なおさら眠れぬ日も多かったでしょうね。そんな年頃の男性が、わき目も振らずにリージュ様だけを求めていらっしゃる。それを疑うような発言をされては、いくら我慢強い殿下でも箍が外れますよ」
眠れぬ日、と聞いてよく意味が分からなかった私は、ネフィに尋ねてみた。呆れつつも解説してくれた。その答えを知って、私は赤面してしまう。
「陛下も仰っておいででしたよ。持て余した愛欲をどうしたらいいのか、よく相談されていたと。なので、秘蔵の教本をお渡ししたそうです。それを読んで、ご自分で練習されたのでしょうね。それを……」
そこでまた溜息。
私の頭は大混乱するのだった。
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