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「おかえり」
「ただいま。あれ、何かみのり機嫌いい? 楽しいことでもあった?」
「え。そうかな、別にいつもどおりだよ」
雅也は部屋着に着替えると、食卓へやってきた。
「今日は和食か。いいな、美味そう」
「ふふ。ネットで評判のいいレシピ使ったんだ。ビール飲む?」
冷蔵庫から缶ビール2本を出して席につく。
雅也にひんやりしたそれを片方差し出そうとすると、彼は夕飯をじっと見つめたまま固まっていた。
「ん、何どうしたの?」
缶をテーブルに置いて声をかける。
雅也の視線は、ぶりの照り焼きに向けられている。
「これってさ……。いや、やっぱ何でもねぇや」
缶ビールを取り上げた雅也は、ぷしっと軽快な音をさせてそれをあおった。
みのりは「そう」と言ってにっこりした。
「何でもない」というならそれでいい。余計な一言で雅也を突っついて、こちらが余計な一言を食らいたくないからだ。
雅也は滅多に怒らない。人間的にも優しいほうだと思う。
でも料理のできに悪気なく、あれこれ感想をくれることがある。嬉しくなる感想もあれば、それって言う必要あった? ってムッとするような感想も。
だから、雅也にはできるだけ完璧な料理を出したいと思っている。
今日は大丈夫なはず。
味も見た目も……ニオイもバッチリだから。
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