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みのりは雅也の様子をうかがう。
何も言わず、もくもくと魚の切り身を口に運んでいるのを見て、ほっと息をつく。
「ねえ雅也。今週の日曜日、久しぶりに晴れるみたいなんだけど、一緒にどこかへ出かけない」
「いいよ、行きたいところはある?」
「吉祥寺とかどう。評判のいいオーガニックレストランがあるの」
「分かった、それは構わない。けどさみのり、また例のアレつけてくつもりか。ほらあの、どこでも何ちゃらアプリ」
「うん? だってあれ便利だし、面白いんだもん。出かけた先のニオイを保存して、友達に送ることもできるし。素敵な香りを離れた人のもとへ届けられるなんて、すごくロマンチックじゃん 」
「そういう使い方をするのは別にいいよ。好きにすればいいけどさ。でもみのり、自分自身にもつけるじゃん、いろんなニオイ」
淡々とした声に聞こえるけれど、何となくいつもより表情が険しい気がする。雅也、どうしたの。何だか機嫌が悪い?
みのりはテーブルの下でぎゅっとこぶしを握った。
「あ……前に私がつけたのは、桜の香りとかレモンの香りだったよね? いいニオイだったでしょ。ちょっと冒険して芝刈り後の芝生の香り、とかも試しちゃったことあったけど。あれはまあ、正直微妙だったけどさ。でももう香水感覚だよ。ジメジメして汗かくしエチケットってやつだから。みんなやってるし流行ってるし」
気付けば言い訳めいたことを並べ立てていた。
自分は何も悪いことをしていない。でも雅也はちょっと疲れて見える。どうしてなのか、みのりには分からなかった。
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