スメルの氾濫 あふれる想い

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「みのりちゃんのこともさ、知らずに傷つけたりしてんじゃねえの。悪気ないのがいちばんタチ悪いからな」 「そんなこと言っても、今更どうすりゃいいんだよ。みのりがあのアプリにどハマりしてるのは、俺のせいってわけでもないだろ。いや……俺のせいなのか? とにかく、一緒に外出するたび、みのりからよく分からんニオイがするのは耐えられないんだ。家の中だって摩訶不思議なニオイが充満して、鼻がおかしくなりそうだし」 このアプリが流行りはじめたせいで、新宿や渋谷などの繁華街は、そこにありえないニオイであふれかえるようになった。 鼻が敏感な雅也にとっては、吐き気との戦いだ。 頭を抱えてカウンターに沈み込んでいると、その肩をポンと一樹が叩いた。   「俺、明日さ。高校のグラウンド行って、野球部の試合観るんだ。後輩から声かけられててさ」   「なんでお前が声かけられてて、俺には何もねーんだよ」   「卒業以来、ほとんど顔見せないお前と違って、俺はずっと観戦しに行ってたから。まあ今はそんなのどうでもよくて。お前も来いよ。悪いようにはしないからさ」 明日か。明日は土曜日だ。 みのりと出かけるのは日曜日だから、幸い予定はかぶっていない。ニオイまみれの家にずっといるよりは、蒸し暑くても外にいたほうがマシかもしれない。 それに、一樹は昔から何だかんだと頼りになる。悪いようにはしないと言う友人の言葉に、雅也は乗せられてみることにした。
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