23人が本棚に入れています
本棚に追加
どこでもスメル from 雅也
今日の午後は雅也がいない。
せっかく仕事が休みの日なのに、高校時代の野球部メンバー、一樹くんと遊ぶために出かけてしまったからだ。
どこへ行くのと尋ねてみたけれど、まだ決まってないと誤魔化されてしまった。本当に相手は一樹くんなのよね? とみのりは疑ってみる。
雅也はこれまで浮気なんかしたことないはずだから、一応、信じてはいるけれど……。
これでもみのりは野球部のマネージャーだった。だから、チームメイトの一樹くんのことはよく知っている。どうせなら、自分も遊びに連れて行ってくれればよかったのに、と思う。
「まあいっか。明日どうせ、雅也と吉祥寺まで出かけるんだし。今日はひとりを満喫しようっと」
いっそ自分も友達を誘って、ショッピングにでも繰り出そうか。そうだ、そうしよう。家でウジウジするより、そのほうが自分らしい。
スマートフォンで連絡先一覧を確認する。
画面をスクロールしながら、この中でいちばん暇そうなのは……なんて失礼なことを考えているとーー。
ブブ、とスマートフォンが震えた。
メッセージが送られてきたみたいだ。
通知を見ると、送信元は雅也。
いつも使ってるSNSじゃなくて、「どこでもsmell」を通して送ってきたようだ。
どういう風の吹き回し? とみのりは首を傾げる。こんなこと初めてじゃないだろうか。
以前、雅也に「どこでもsmellアプリ」をすすめたことがあったけど、あまり興味がないようだった。アプリをインストールしているのを見たので、てっきり日常的に使ってくれるものと思って、専用アクセサリまでプレゼントしたのに。
今更、何を思い立って使う気になったんだろう。
みのりが好奇心のままにメッセージを開くと、
文章に「スメル」が添付されているのに気付いた。
「ん? 何のニオイを送ってきたんだろ。どれどれ」
ぽちっと「スメル開封」をタップする。
瞬間、ふわっとあたりに何か広がって……。
「うっわ、何このニオイ! くっさ、ちょっとヤダもぉ何なの雅也っ。嫌がらせのつもり? 私がぶりの照り焼き焦がしたから? ほんともーー……」
ひとりで喚きながら、みのりは気が付いた。
鼻を刺激するニオイが、脳に何かを訴えかけている。
雅也は、嫌がらせでこんなニオイを送ってきたんじゃない……?
頭の中をよぎった何かが、それを伝えてくれる。
このニオイ、私は知ってる。
最初のコメントを投稿しよう!