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帰路
「ママぁ、帰ろうよぉ」
「うるさいわね」
「僕、おうちに宿題おいてきちゃったよぉ」
「ええ? なんであんたはいっつも肝心な時に大事な物忘れるのっ!」
「だってぇ‥‥‥」
激しい雨に、イライラとワイパーを睨みつける。
情けない。
この子ほんとにあいつにそっくり!
下を向いて泣き出した息子に、
吊り上がった母親の目から急に怒りの熱が引く。
「いいわ」
車を止めた。
「おりなさい」
「え?」
「帰りたいんでしょう? 一人でパパんとこ帰んなさい!」
「え、遠いよ、だって、雨も‥‥‥」
「知るもんですかっ! あなたもパパも私よりあのお姉さんがいいんでしょう? だったらあそこのお屋根の下で、お電話でも何でもして迎えにきてもらいなさいよ。この辺なら何度も来てるし、馬鹿なパパだってすぐに分かるんだから」
母親は意地悪く笑った。
「さ、ばいばい。ママはこれから自分のお家に帰ります」
「やだ、ごめんなさい、僕、あ!」
「さっさとおりるのよっ!」
なぜあの時、ここに足を乗せてしまったのか。
鈍い音がした。
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