帰路

1/1
前へ
/5ページ
次へ

帰路

「ママぁ、帰ろうよぉ」 「うるさいわね」 「僕、おうちに宿題おいてきちゃったよぉ」 「ええ? なんであんたはいっつも肝心な時に大事な物忘れるのっ!」 「だってぇ‥‥‥」 激しい雨に、イライラとワイパーを睨みつける。 情けない。 この子ほんとにあいつにそっくり! 下を向いて泣き出した息子に、 吊り上がった母親の目から急に怒りの熱が引く。 「いいわ」 車を止めた。 「おりなさい」 「え?」 「帰りたいんでしょう? 一人でパパんとこ帰んなさい!」 「え、遠いよ、だって、雨も‥‥‥」 「知るもんですかっ! あなたもパパも私よりあのお姉さんがいいんでしょう? だったらあそこのお屋根の下で、お電話でも何でもして迎えにきてもらいなさいよ。この辺なら何度も来てるし、馬鹿なパパだってすぐに分かるんだから」 母親は意地悪く笑った。 「さ、ばいばい。ママはこれから自分のお家に帰ります」 「やだ、ごめんなさい、僕、あ!」 「さっさとおりるのよっ!」 なぜあの時、に足を乗せてしまったのか。 鈍い音がした。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加