12人が本棚に入れています
本棚に追加
妹・真樹(まき)
「また‥‥‥」
この着メロが鳴ると後頭部が軋み、息が苦しくなる。
呼び出される時はいつも炎天下だったり大雨だったり風のひどい夜だったり。
要はご近所様が誰も見ていない時だ。
真樹は油まみれの手袋をはずした。
何だっていっつも手が離せない時にかけてくるのかしら。
「もしもし?」
『やっと出た! ふつう五回くらいで出るのが常識よ? 美樹だったら』
「レンジフードのフィルターを変えてたの。だから手がベタベタで」
『ちょっと! まさか手袋してないの?』
んなわけねぇだろ!
この噛み合わない会話が精神を削る。
『それに隆太さんそんなこともやってくれないわけ? うちのお父さんだったら』
「で、何!」
『何よその言い方、ま、いいけど。あのね、雨が降っているでしょう?
お母さん、やっぱり足が少し痛いみたいなの。で、おうちの食べ物が無くなっちゃったのよ」
「つまりこのどしゃ降りの中、私に食べ物を買って持ってこいってこと?」
『そう言う事』
少しは申し訳なさそうに言えよ。
それに、今から肘に着いた汚れを落として街着に着替えて戸締りして、
スーパーに行って買い物して実家に寄ることを考えたら、
あなたが自分で行った方がよっぽど早いと思うけど。
「わかった。で、いつものサンドイッチ屋さんのでいい?」
『ん~‥‥‥。ま、いいわ。あなた怒り出しそうだし』
真樹は即座に携帯を切った。
最初のコメントを投稿しよう!