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雄一がドアを開けて中に入ると、達也がその後を追いかけた。
カメラが部屋の中をなめるようにグルリと撮影する。
家具やクッションは柔らかなクリーム色で統一されていて、落ち着いた雰囲気だ。
引きこもりと言えば部屋の中も散らかり放題なイメージがあるけれど、夏美の部屋は整理整頓されていてホコリも見当たらない。
それを見てか、達也が安堵するため息の音が入り込んだ。
「俺の友達の夏美」
雄一の声に反応してカメラが大きく移動する。
そして女性をドアップにして写し出した。
不健康なほど色白で透き通った肌。
折れそうに細い体で、唇だけが赤く浮き出て見える。
大きな瞳は今にも転がり落ちてしまいそうだ。
「こんにちは夏美ちゃん。久しぶりだね」
「お、お久しぶりです」
夏美が緊張して左右に瞳を揺らし、声も少しだけ震えた。
雄一が夏美の隣に座って、その手を握りしめた。
「このドキュメンタリーを製作するに当たって、夏美ちゃんとは一週間前に1度お会いしました。だから、お久しぶりってことです。で、そのときにお互いに下の名前で呼んでいいということになっています」
達也の説明に夏美がうんうんと小刻みにうなづく。
雄一が手を握ったおかげでその表情からは緊張が解けてきているようだ。
「それで、夏美ちゃんは引きこもりって聞いたんだけど、それは本当?」
「はい、本当です」
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