刑執行

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飯盒炊さんの説明は四人娘が行った。 現場仕事感を醸し出して、おぅ!若ぇの!休憩すんべや!…みてぇな角刈りの高校生が飯を作る過程を子ども達に説明してもまともに聞いてくれねぇだろ。 歌やら、レクレーションを織り交ぜて丁寧に分かりやすく説明していく様子を、俺は保護者達の手伝いをしながら見ていた。 『すげぇわ。幼稚園教諭とか保育士とかなったら大成しそうだな…。』 俺もやさぐれてはいたが、「幼稚園教諭」やら「保育士」、「小学校教員」とかに憧れていた過去があった。 だが当然ながら昭和から平成初期の時代は現在のように男女平等など謳われてなかったし、男性の職業、女性の職業としっかりとした線引がされていた時代だった。 それはそれで男の特権、女の特権として成り立っていた部分もあるし、上手く回っていた部分もあったが、やはり夢見ていた時の俺は幼稚園児〜小学校低学年というのもあり現実を理解した際はそれなりにショックではあったな。 それに幼稚園教諭とかっていったらピアノが必須スキルなんだろ? 団地住まいの家庭にそんなんやる趣味も金も環境も無ぇっつうんだよ。 夢なんて環境でほぼほぼ叶うかどうかは決まるし、なんなら夢に向かう姿勢スタンスすら決まっちまうんだよ、分かるか?夢を捨てるななんて声高らかにほざいてる金◯先生&松岡◯造系インスパイアの比喩表現も使えねぇポエマーモドキのク◯陰キャどもよ。 まぁ過去を愚痴っても仕方がないし、現在かわゆい奥タソと大飯食らいの愚息に食う寝るところに住むところを不自由させてねぇし、酒に困ってないからまぁどうでもいいか。 暴言が過ぎたな。 話を戻す。 まぁなんやかんや言っても子どものお世話や、仕事や勉強を教えるのに性別差は無いが子どもにレクレーションや何か生活の事を教えたりするのって女性が上手いよなって思うよ? 俺はこの四人娘だけではなく、他の女性も色々見てきたけどやっぱり女性はこの手のことは秀でてると思う。 四人娘の成長は素晴らしかった。 すでにこの時点で「子ども達の注目を集め、何かを説明して理解させる能力」に関しては俺を超えていると思った。 彼女達の説明が良かったのか、今回の子ども達のスキルが高かったのかは不明だが飯盒炊さん失敗班はなんとゼロ。 素晴らしい。 片付けに関しても四人娘は大活躍。 遊びやゲームを取り入れて、ほぼ保護者の介入無しで綺麗さっぱり、迅速に終了。 俺はおかげでひたすら保護者の手伝いや、掃除に力を入れることができた。 「色々ご苦労さまです!リーダーさん、ありがとうございます!助かっちゃいました!」 「ホントホント!ご苦労さまぁ!おやつと冷たい飲み物あるよ!」 俺は保護者の役員さんから感謝されちまった。 俺が保護者のお手伝いできたのは四人娘がサクサクと子ども達を操っていたからだ。 「いえ、とんでもないです。あのコ達が勝手に全部やってくれたんで皆さんのお手伝いができたんですよ。僕はとりあえず飲み物だけいただければ大丈夫なんで。おやつは彼女達に…。」 「そう?いいの?はい、じゃあこれ麦茶ね?ガッチガチに冷えてるよ!!少し座って休んで休んで!」 保護者役員のおばさんが、350ml缶の麦茶を氷が敷き詰められた大きなペール缶から取り出して俺に渡してきた。 おばさんが言った通りよく冷えている。 俺は礼を言うと、近くのあずま屋の椅子に座った。 「中学生でアレか…。もう俺の出る幕無いな。」 俺は缶を開けて喉を鳴らし、麦茶を飲んだ。 やかましい蝉の声が今日はやけにマイルドに聞こえる。 自分のボランティア活動引退、自分の進路、部活の引退…何もかもこの一年で変わる。 寂しい反面後進がこうして育ってくれたのは本当に嬉しいのだ。 自分に憧れてくれて同じ団体の研修を受けて、同じ団体に入ってくれた上にこうしてすでに大活躍をしている。 この事実は冗談抜きで嬉しかった。 「彪流さぁん!」 缶入りの麦茶を飲み終えた俺の元に下田綾子が駆け寄ってきた。 やめなさい。 そんなに走ると大きなおっp… いや…その…暑いし足場も良くないんだからそんな走っちゃダメでしょうが。 「どうした?何かあった?」 俺の目の前に立つ下田綾子は手に半冷凍ゼリーのようなお菓子がパンパンに入った袋を持ち、肩で息をしている。 「ハァ…ハァ…。彪流さん、おやつ…食べないの…?」 「あぁ、俺はいらないよ。」 下田綾子はニコリとして袋からゼリーを取り出して蓋を開けた。 そして次の瞬間である。 そのゼリーを傾けて俺の口元に持ってきたのだ。 「え…?む…むむ?」 俺は無意識にそれを口に咥えた。 そして無意識に吸い込んだ。 上唇に下田綾子の人差し指の先端が触れる。 下田綾子はゼリーを吸い込んだのを確認するとその手を俺の口元から離していく。 俺は少し咀嚼して飲み込むと、ゼリーの空き容器と俺の唇を結ぶ唾液のアーチを壊さないように下田綾子の顔を見上げた。 下田綾子は毒々しい笑みを浮かべたまま俺を見下ろして言った。 「ンフフフ…彪流さん、ホント…かわいい…。」
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