2人が本棚に入れています
本棚に追加
駅から子ども達、保護者達と電車に揺られること二十分程度で最寄り駅に到着した。
今日から三日間お世話になるところは、「公営キャンプ場」ではなくて「公営研修施設」である。
だからトイレも綺麗だし、入浴施設もちゃんとしているし、空調の効いた部屋のベッドで眠れる。
とはいいながら飯盒炊さん、野外炊事の設備や営火場もあるのでライトなキャンプ体験をするにはもってこいってヤツだ。
皆んな聞いたことないですか?
「◯◯市立少年自然の家」だと「◯◯県立青年の家」とかいうヤツ。
それですよ、それ。
数年前から少子化だとか、自治会活動縮小による子ども会消滅などの影響でどんどん潰れていってしまったようだが、今どうなってんだろね。
最寄り駅にその施設のバスが待機しており、子ども達はワラワラとそのバスに乗り込んでいく。
「お兄さんお姉さんはこっちこっち。こっち乗って下さい。」
保護者代表のおばさんが手招きしている。
自家用車だろうか、立派なワゴン車だ。
「失礼します。お願いします。」
四人娘と俺は頭をペコリと下げてワゴン車に乗り込んだ。
下田綾子の隣に…としたいところだが、俺は保護者代表と話をしなきゃなんねぇ…。
「ちょっとお話したいので…助手席失礼してよろしいでしょか?」
「あぁ!どうぞどうぞ!」
俺は助手席に乗り込んだ。
ワゴン車は発進した。
中々アグレッシヴな運転だな、このおばさまは…。
「えぇと…到着して職員さんのオリエンテーションを子ども達が受けてる間、僕たち少し流れ等をおさらいしたいんですけど、対応可能でしょうか。」
俺は冷房の風を浴びながら保護者代表のおばさんに話をした。
「流れ?あぁ別にそんなの気にしなくていいですよ?お昼の飯盒炊さんの説明と子ども達の手伝い、後はキャンドルサービスの段取りと進行だけなんで。」
「あぁっと、キャンプファイヤーじゃなくてキャンドルサービスなんですね?」
「だってもう…暑いじゃないですか。空調が効いたホールでやった方が楽ですよ。」
「ま、まぁ確かに…僕らも助かります。」
「後は自由に子ども達と適当に遊んだりレクレーションしたり…そんな感じでいいですよ。コレ、一応時間割りが書いてあるんで見といて下さい。」
おばさんは俺に「夏期キャンプのしおり」を五部渡してきたので、後ろの四人娘に分けた。
『助かるな。連泊の俺と綾子にとっちゃだいぶ助かるぞ。』
俺はうんうんと大きく頷いた。
到着したら職員からのオリエンテーション、その後飯盒炊さんの準備と説明、それから飯盒炊さん実施片付け、それから夕飯まで自由時間!
しかも夕飯は施設の食堂を利用するとのこと!!
いやぁ!こりゃありがたい!
しかも入浴を済ませてから涼しいホールでまったりとキャンドルサービス。
ワチャワチャと血湧き肉躍るキャンプファイヤーではないのだ。
『夕飯食堂で食えるってだけでもだいぶ楽だ。夕飯バーベキューやらなんやらやったら時間的にキャンプファイヤー終わんのが就寝時間ギリギリだからな…。いやいや…このおばさん理解があるぜ…。』
そうこうしていたら施設に到着。
『何回目だよ、ここ。小学校から数えたらもう十回以上行ってんよな。』
そう、ここは俺にとっちゃお馴染み中のお馴染み、キングオブキングスである。
「あぁ懐かしいねー。」
「ホントだ。小五以来かなぁ。」
「いやいや、あたし小六の時バスケットの合宿でも使ったよ?」
「あ、あたしもそう。」
そうかそうか、四人娘も俺が生息している市町村と同じだからな。
小学校やら中学校なんてカリキュラムなんざあんま変えないだろ。
分かるよ、先生方よ。
社会人になったら分かった。
何かを変えるのってエネルギーも、頭も使うし、時間も無駄にかかるんだよな。
特にあんたら先生方は公務員だろ?
形式的な仕事が多いってんだから、少し変えるだけでもえらいこっちゃになるのはすんげぇ分かる。
あぁ、これ別にディスってねぇよ?
理解してるって言いたいだけよ。
話を戻す。
ワゴン車から降りた俺は、蝉の大合唱に顔をしかめた。
地の底に七年間いたその鬱憤を大爆発させるように叫ぶ蝉ども。
「さぁ、元気だして行こう。」
俺は大きなバッグを肩に担ぎながら、後ろを歩く四人娘に声をかけた。
「はい!」
「はぁい!」
「はい!」
「はーい!」
あぁもう、なんていいコ達なのよ…。
こんなんしてたら勘違いしちゃうじゃないのよ…色々と…。
そう、色々と…ね…。
個人競技が大半を占める陸上部所属の俺…こういう団体競技にありがちなこういう感じのやってみたかったのよね。
なんかこう、満たされるよね…支配欲?独占欲?よく分かんないけど…皆さん分かるよね?
自分の言ったことに対して元気よく歯切れのよい返事をされるとそりゃもう…。
おっといかん。
ヨダレが…
さぁ二泊三日のハードスケジュールが幕を開けたぞ。
最初のコメントを投稿しよう!